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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第102話 憂国 その2
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地球教徒もさぞかし仕事がしやすいだろう。従順な信徒を増やし集票組織としての力とつけ、クーデター時にはトリューニヒトの身柄を守るなど実働部隊として……

「……まさか」

 いつからトリューニヒトと地球教徒が協力関係になったのか。原作は『お互いを利用し合う関係』としか書いておらず、具体的な時期まではわからない。
 ただ総大主教がルビンスキーに言っていた、帝国・同盟の権力・武力の収斂化。帝国は金髪の孺子に、同盟はトリューニヒトに。その上で信仰によって精神面から支配する。社会の不安定性を維持するには帝国と同盟は対立状態になくてはならず、平和共存しようとしたマンフレート二世も、自主的な行動をとろうとした『現』フェザーン自治領主ワレンコフも手にかけたと言っている。

 俺が提出しようか迷っているレポートは、冷戦状態という緊張感のある平和共存を作り上げるものだ。その主幹は、戦争をイゼルローン回廊内部に押し込み、専守防衛体制を作り上げ、同盟国内の国家経済力を回復させることにある。総大主教と地球教徒にとってはあまり都合のよろしい話ではない。

 国防態勢が再編成され同盟市民の精神的安定が先か、それとも配備の遅れから結局は原作通り社会不安の道を辿るか。戦略研究予算獲得から首飾りの製造までのことも考えれば、五年のうちに防衛ラインの整備に取り掛かれるかどうかはギリギリか……
 
 トリューニヒトはそれを見越して俺に遅いと言ったのだろうか。すでに自分は地球教徒と手を結び、誠実な協力者として同盟を崩壊させるシナリオは進んでいると。だが現時点で地球教徒とトリューニヒトが手を結んだという明確な証拠はないし、サイオキシン麻薬の頒布と地球教徒の関係を認識あるいは妄想している人間は、ズルをしている俺以外は当事者だけと考えていいはず。

「どうせ言っても『ダメ』ということかな」
「なにか、仰いましたか?」
「いや、なんでもありません。疲れている時は独り言が多くなりますのでね」

 軽く咳払いをしつつ、再びリクライニングして無機質な天井を見上げる。ほぼ内容を知っているトリューニヒトにレポートを提出する意味は、物的証拠と答え合わせ以外にはない。地球教徒と手を組んでいるとしたら、俺はとうに要注意人物か暗殺対象になっている。もっとも俺はあまりに小物過ぎて暗殺するまでもないとは思うが。

「チェン秘書官。レイバーン議員会館五四〇九室に、近々でアポイントを取ってくれ」
「承知いたしましたわ、中佐」

 そう言って深く頭を下げるチェン秘書官の顔を見ることはできなかったが、その声色がいつもより少しだけ音程が高かったのは、決して間違いではないように思えるのだった。





 結局その日のうちに俺はトリューニヒトの議員会館執務室に行って、データファイルを手
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