第三部 1979年
原作キャラクター編
運命の赤い糸 前編 ヴァルター・クリューガー
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となったのだ。
演習初日は、朝から雨が降っていた。
気象台の予報では、夜半に上がるとの話であったが、本格的に降ってきたのは夕方である。
急な天候の変化と、不慣れな英語による航空管制は、結果として彼らの道を迷わせることとなった。
夜間飛行経験のあるヘンペル少尉でさえ、飛んでいる位置が分からないほどの豪雨に見舞われたのだ。
おまけに時間がたつにつれて、豪雨で視界が遮られ、1キロ先も満足に見えない状態。
ダンツィヒに向かって飛んでいたはずの彼らは、急遽、近くの村落に不時着することにしたのだ。
豪雨の中、不時着したのはヴロツワフ郊外。
その際、通信用のアンテナが大破してしまうという事態に陥ったのだ。
4名の乗組員は、全員マント型の茶色い将校用の雨がっぱを着て、機外に出ていた。
エンジンから、白煙が上がり始めたためである。
「隊長、不時着の衝撃で、操縦桿まで馬鹿になってますね。
これはもう現場では直せませんよ」
整備士の資格も持っていた予備役少尉が、ヘンペル少尉に話しかける。
「無線機だけじゃなくて、操縦装置までお釈迦か……。
こいつはめえったね、どうも」
ヘンペル少尉は、内ポケットからビニール袋に包んだソフトパックのキャメルを取り出す。
一本ずつ煙草を全員に配った後、
「めえったな、どうも、めえったな……」
言葉を切るとタバコに火をつける。
「そこらの人間捕まえてきて、ポーランド軍の基地に連絡入れれば済むじゃんか。
おれってばかだな、もう……」
と一人ごちった後、
「ヴァルター、おまえ、ちょっとこの辺の百姓のとこまでいって電話借りてこい」
「同志少尉、自分はポーランド語が出来ませんが……」
「なに、ここは30年前までドイツだった場所だ。
ドイツ語の話せる住民は結構いるはずさ。
なんなら若いあんちゃんでも捕まえてくれば、ロシア語位できるはずさ」
社会主義時代のポーランドでの公用外国語は、ロシア語であった。
いや、コメコンやワルシャワ条約機構に入った国では、ロシア語が必須科目であった。
今日使われているキリル文字は、1956年に改良されたものである。
コメコン諸国のために、ソ連国外のロシア語学習者のために、繁雑な正書法を簡略化したものである。
これにより、ロシア語はほぼロシア語の発音に近い表記をされるようになり、学習をより容易にした。
ソ連がこれほど言語政策に力を入れたのはなぜであろうか。
それは共産主義を文盲の貧農にまで教え込むには、識字率を上げる必要があったためである。
資料によれば、革命前のロシアでは5から13パーセントほどの人しかキリル文字を使いこなせず、ロシア語での意思疎通が不十分であったという記録も存在する。
レー
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