繁華街
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華街へ目線を移した。
「人を隠すには人の中。この中から特定の個人を見つけるとか無理だろ」
「うーん、美味しいッ!」
「少しは聞けよ!」
頬にクリームを付けながら幸せそうな笑顔の響。彼女の頭からは、どうやら目の前の甘味以外のものは全て消え去っているようにも見える。
これを食べ終わったらもう別のところを探すことに決めたコウスケは、引き続きクレープを頬張る。
「……これもうちっと腹に溜まんねえの?」
「美味しいから大丈夫ッ!」
「絶対に会話かみ合ってねえな」
コウスケは空を仰ぎ、もう一度クレープを食べる。今度は小麦粉でできている外皮の方だが、そちらは完全に味がしない。
「……これ何で人気あるんだ?」
コウスケがそんな疑問を持っていると、目の前の椅子に別の女性が腰を掛けた。
長く伸ばした髪に整った顔立ち。
すごい美人だな、とコウスケが舌を巻いていると。
「……一之瀬!?」
ふと、その名を口にした。
すると、目の前の女性はぎょっとしたような顔でこちらを振り向き。
おそらく無意識に、その口を動かした。
「……! た、多田君?」
腰を落とした女性は、思わず立ち上がった。
眼鏡がない上、服装や髪形もコウスケが知っているものとは違うが間違いない。
そこにいるのは、コウスケと何度か同じ講義を受け、またそれなりに互いを見知った顔として認識しているマスター候補、一之瀬ちづるであった。
「あなた、何でこんなところに……?」
「ああいや……それは……」
「水原さん、お待たせ」
その時、彼女の背後に男性の姿が現れる。
気弱そうな体つきの男性。眼鏡をかけた地味な外見の彼は、どことなく震えながらちづるへクレープを手渡した。
「はい、どうぞ」
「あ、ありが……」
「水原って……お前のことか? でもお前……」
「だ、誰かと人違いしているんですね? すみません、私はもう行きますから!」
「え? ちょ、ちょっと!」
だがちづるはそれ以上の発言に耳を貸さず、そしてクレープを手にすることもなく駆け出した。
「あ、おい待ってくれ一之瀬! 響、追いかけるぞ!」
「ええッ!?」
まだクレープを食べかけの響の抗議に耳を貸さず、コウスケは響の腕を掴みながらちづるを追いかける。
「……」
ただ一人取り残されたちづるの連れの男性は、茫然とちづるたちを見つめることしかできなかった。
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