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冥王来訪
第三部 1979年
戦争の陰翳
東京サミット その2
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、タバコに火をつけた。
八楠は落ちているコルト・パイソンを拾うと怒りに任せ、拳銃をマサキに向ける。
 引き金を引くと爆音が響いたが、当たったかどうかは判らない。
確認をする前に、彼自身が撃たれたためであった。 
 拳銃を持った八楠は、事件の通報を受けてきた警官に射殺された。
債権者の狂言を見て、美久が手配しておいたのだ。
 事情を知らない警官は、八楠を立てこもり犯と勘違いした。
マサキに向けて発砲した直後、八楠の脳天を警告なしに撃ったのだ。
 撃たれたマサキに被害はなかった。
次元連結システムのちょっとした応用で、難を逃れたのだった。

 マサキは、流れ去ってゆく新宿の街並みに顔を向けた。
 外はすっかり陽が落ちて、暗くなっていた。
高速道路から見える街の灯りは、星のまたたきのように美しい。   
 この大東京の繁栄ぶりを、いつかアイリスディーナに見せてやりたい。
いや、みせるどころか、銀座や有楽町と言った街中を二人でぶらぶら歩いてみたい。
 デートまではいかないが、誰に気兼ねすることなく朝から晩まで連れまわしてみたいものだ。
 別に東京じゃなくてもいい。
紅葉の時期に、京都の金閣寺や、日光の中禅寺湖に連れて行ってのもよかろう。
 真冬に沖縄でバカンスなども、楽しかろう。
彼女の眼の色と同じ海で泳ぐのも、また一興だ。
 ソ連の後ろ盾のなくなった東独は、10年もしないうちに滅ぶ。
石油や天然資源が格安で入らなくなり、経済的に立ち行かなくなるのは目に見えている。
だから、焦る必要はない。
 だが、アイリスディーナの年齢を考えれば、悠長なことも言えまい。
今は19歳の美少女だが、10年もすれば29歳だ。
 若い女の1年は、男の5年にあたる価値がある。
10年も無駄に過ごせば、50年を無為に過ごしたことと同じになる。
 この黄金の日々を、あのくすんだ色の軍服を着て過ごさせるような真似は避けたい。
彼女に似合うのは、レインドロップ模様の迷彩服ではなく、パールホワイトのドレスだ。
 胸を飾るのは略綬やメダルではなく、神々しい光を放つジュエリーでなくてはならない。
トレンチコートではなく、練り絹やメリノウールで編んだストールをまとってほしい。
 細い腕には、ソ連製の自動小銃・AKMではなく、いとし子を(いだ)く方がふさわしい。
そこまで思って、マサキは静かな笑みを浮かべた。
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