第三部 1979年
戦争の陰翳
東京サミット その2
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カメラマンを呼んでやろうか」
「な、何!」
「株式買い取りを通じた合併は、合法的な企業戦術にしかすぎん。
それに敗れたお前は、ただの負け犬ってことさ」
「この期に及んで、何を言うか!
人が心血を注いで築き上げた会社を、二束三文の金で奪い取ることの、どこが合法的なんだ」
激昂した男は、リボルバーの撃鉄をゆっくりと上げた。
ほぼ同時に、輪胴式の弾倉が、連動して回転する。
「頼む、八楠さん。
後生だ、私から……会社を奪わないでくれ」
「俺は忙しいんでね。
それに商人の自殺というのは、この目で見るのは初めてなんでね」
「き、貴様、正体を現したな。
青年実業家などと、持て囃されているが、薄汚い政商なんだ」
政商とは、政府や官僚との縁故や癒着により、優位に事業を進めた事業家や企業のことである。
俗に、御用商人とも呼ばれ、公共事業や新規発展の目覚ましい産業に食い込んだりもした。
明治期の御用商人として代表的な人物として、薩摩藩士であった五代友厚などが有名である。
もっとも彼は、事業の負債を抱えてまで、商船三井や南海鉄道などの、今日にまで残る仕事をした。
だが晩年は、重度の糖尿病に侵され、49歳で亡くなるという、あっけのない最期であった。
「こうなったら、地獄で待っているぜ。あばよ」
男は周囲の人間が止めるよりも早く、コルト・パイソンをこめかみに当てる。
その途端、ピューンという音とともに、手裏剣が拳銃をかすめた。
男は手裏剣の衝撃で、持っていた回転拳銃を取り落とした。
周囲の人間は、一瞬の出来事に理解が追いついていないようだった。
まもなくすると、その場に、拍手が鳴り響く。
野次馬として来ていた八楠の社員たちが振り向くと、数人の男女が立っていた。
1人は、季節外れの、茶色いトレンチコートを手にした、壮年の男。
薄い灰色の背広に、パナマハットなどを被っているところを見ると、サラリーマン風である。
「何だ、貴様らは!」
警備員の問いかけに、鎧衣は持ち前のユーモアをたっぷりと披露した。
「いや、東京は恐ろしいところですな。
ビルの中に入ってみれば、自殺未遂。
京都では考えられませんな」
藪から棒に変な事を口走る男。
人々は気違いと思って相手にしなかったが、社長の八楠はこう返した。
「京都から来たんだって?
じゃあ、大空寺の総帥、大空寺真龍は知っているかい。
総帥と俺は義理の兄弟なんだ」
マサキは苦笑すると、八楠の方を向いた。
手をのばせばすぐ届く距離に、肥満漢の大男が立っていた。
「知らんね。
俺には、お前の様な関取の知り合いはいないんだ」
男のだらしのない体型をあざ笑った後
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