暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪
第三部 1979年
戦争の陰翳
東京サミット その2
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がその情報の出どころが、問題になった。
ユルゲンが東ドイツで鹵獲した新型のソ連機・MIG-23にそっくりだったからである。
 MIG-23は、ソ連の最新鋭戦術機で、主な配備先はKGBだった。
ソ連赤軍にも配備されていないものを、なぜ日本の企業人が持っているのだろう。
 考えられるのは、KGB工作員から報酬代わりに渡されたという事だ。
ソ連への情報の見返りで貰うほかに、日本側を混乱させる偽情報をつかまさせらるケースも否定できない。
何にせよ、危険な香りのする案件だ。
 八楠も表向きは貿易商で、ナホトカに事務所を置いている。
彼の親ソぶりは有名で、BETA戦争で頓挫したシベリアの資源開発交渉に参加した経験がある。
この時代にロシア関係に携わる者は、基本的に容共親ソ思想の持ち主だった。
 八楠は、女性問題ではなく、思想的に共鳴して、ソ連を援助している。
三人の中で、一番危険な部類である。

 資料に目を落としていたマサキは、わずかに口元をゆがめる。
着ている開襟シャツの右胸ポケットから、ロングサイズ用のシガレットケースを取り出す。
 電解アルマイト加工がされた黒いパネルのついた真鍮製のケースから、ホープを一本ぬきだす。
煙草の長さが70ミリと短く、100ミリのケースにあっていないことは承知している。
だが、この坪田パールが作っている日本製のケースが、好みなので仕方がない。 
 煙草のフィルターをくわえたマサキは、100円ライターの火を顔に近づけながら、こう思った。
 殺してもよい人物とは、存在するものだ。
 そして、この俺にはそれだけの事を行う力も能力もある。

 早速、マサキは丸の内にある八楠の本社ビルをたずねた。
しがないソ連相手の貿易商にしては、金回りのよさそうな感じを受けた。 
 資本金500万円ほどなのに、丸の内に大きなビルを持っており、多数の従業員を抱えている。
彼の経営手腕も関係あるだろうが、裏に金を貸す銀行なども絡んでいるのだろう。
 ビルの受付に行くと、ちょっとした騒ぎがあった。
白い(かみしも)姿の男が、従業員を人質にとって、立てこもり事件を起こしていた。
「わ、私は、ほ、本気だぞ!
ここで、拳銃自殺をすれば、嫌でも明日の朝刊の一面に載る」
 男の手には、2インチの銃身をもつ、コルト社製の回転拳銃(リボルバー)、パイソンが握られていた。
.357マグナム弾を発射できる小型拳銃で、1955年に発売された。
 ほかのコルト社製回転拳銃と違い、ほぼすべての工程が、熟練工による手作業での組み立て。
その高品質と、高価格帯から、「拳銃のロールスロイス」と評された。
「そうすれば、八楠の汚いやり口が、白日の下に晒されるだろう」
「好きにすればいい。
なんなら、今から在京キー局のテレビ
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