第三部 1979年
戦争の陰翳
東京サミット その3
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体にまとわりつく湿気は消えない」
「蒸し暑いのは嫌か」
「ここは地獄の窯だ」
「じゃあ、なんで真夏の日本に来たんだ」
「血のつながらない娘が、嫁ぐかもしれない国を見たくなったのさ」
血のつながらない娘とは、アイリスディーナ嬢の事か。
確かに、この男とアイリスディーナ嬢の母とは再婚関係にはあるが……
諜報員、鎧衣左近は笑った。
どうやら男は、自分が誰かと知っていて、身分を隠さないらしい。
「君の使える主人は、あのおままごとを本気でやるつもりなのかね」
「いくら社会主義国だからと言って、国際結婚を禁止する法律はない」
「自由を取り締まる人間が言う言葉じゃないな」
鎧衣は、面白くなさそうに言った。
ダウムは、かすかに笑みを浮かべて返す。
「お互い様だろう」
「ああ、そんな所さ」
鎧衣は、マルボーロと使い捨てライターを差し出した。
ダウムは白と赤いソフトパックとライターを受け取ると、封を開け、タバコに火をつける。
「ところで、君に頼みたいのが……」
鎧衣は、唐突に言った。
「信用出来る人間にこれをみせて、確認を取ってほしい」
そういうと鎧衣はワイシャツの胸ポケットにあるシガレットケースを取り出した。
ケースを開けると、中に挟んである紙をダウムに差し出した。
「目的はなんだ」
鎧衣は、ダウムから受け取った紙を見ると訊ねた。
そこには、アクスマンの遺書が東京の日刊紙に掲載された三日後にソ連で報道されたと書かれていた。
「ゼオライマーに関する偽情報にKGBが絡んでいるか、どうかだ。
アクスマンという男は、君の職場の人間なんだろ……
大方、今回の新聞報道で困っているそうじゃないか」
「損な話じゃないな」
ダウムは扇子であおぐと、首をかしげて言った
「KGBと彼の交友関係か。
それとも彼が二重スパイに仕立てた西ドイツの関係者の事か。
記事を書いた人間は……」
「中堅新聞社の編集局員だ。
その新聞社は、表向きは反共主義を掲げているが……」
「平和のためのスカウトを受けた人間かもしれないな」
平和のためのスカウトとは、中央偵察局長官マックス・ヴォルフが好んで使った表現である。
西側の人間をスパイや協力者に仕立てることを、戦争を防ぐためであると自己弁護したのが始まりだった。
この言葉は、シュタージ内部ではスパイとしての勧誘を意味する隠語となった。
「これがシュタージのやり口か」
「KGB直伝の手法さ。
もっとも、今はミルケ長官の時代ではないから、あまり好まれないがね……」
手練れの工作員は、さも10年来の友人のようにシュタージ少佐に答えた。
「まあ、仕事の話はこれくらいにして、冷えたビールでも飲もうではないか」
ダウムは、顔つきだけをにこやかなものに戻して応じた。
「日本人
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