暁 〜小説投稿サイト〜
ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第101話 憂国 その1
[8/9]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
改めて注がれたウィスキーを前に、俺はトリューニヒトに問う。ただ単に気分で酒の相手をさせたくて、俺を呼んだのではないのは、この別荘にトリューニヒトの家族が誰一人来ていないことでも明らかだ。

「そうだね。君がここ最近、悩んでいるようだといろいろな人から聞いてね。差し出がましいと思うかもしれないが、私で力になれることはないかなと思ってね」

 私にできることなど大したことではないなどと謙遜するが、明らかに俺に対して『自白』を強要しているようなものだ。バグダッシュの言う通り、女狐の正式な飼い主はC(中央情報局)七〇(国外諜報部)で、目の前の元警察官僚も一枚?んでいる。『物的証拠』も手にしているかもしれないが、この場合捜査令状もなく抜き取った証拠品は、当人が認めない限り証拠能力はない。

「先生には謝ってばかりですが、余計なご心配をおかけして申し訳ございません」
「君が知崇礼卑だということはよく知っているとも。だからこそ癖の強い政治家も、頭でっかちな官僚達も、みんな君のことを心配してくれるんだよ」
「皆さんの心広いご配慮に、非才の身としては常々恐れ多いと思っております」
 
 じっとトリューニヒトの目を見ながら、俺は応える。トリューニヒトの目も俺の目を見ている。自白を拒否する被疑者を見る刑事の目だ。前世で警察にこういう形でお世話になったことはなかったが、実際に浴びせられると本当に気味が悪い。だがここは警察署ではなく別荘で、トリューニヒト以外の刑事がいる様子もない。

「君は一体何を恐れている?」
 左肘を肘掛けにのせ、組んだ右足の太腿を右手人差し指の先で叩きながら、トリューニヒトは口を開いた。
「砲火溢れる戦場すら恐れぬ君が、一体何を恐れているのかね?」
「人の見えない部分を少し知っただけで『世の中の全てを知っている』と勘違いしそうになる傲慢をです」
「それを知っているだけで十分ではないかね」
「は?」
「君の表面的に現れる行動も思考自体も軍人のそれではないが、肝心なところではやはり軍人だね。地位・権限・命令・行動。超えるべきところと越えてはいけないところの線引きが実に現実的で、かつ巧妙だ」

 シトレから始まり、多くの人から『軍人らしくない』『政治家みたいだ』とさんざん言われてきたが、そういう評価は初めてだ。驚きはしたがコイツの前で表情に出すわけにはいかない。グッと唇を噛み締め、トリューニヒトを真正面から見据える。俺の表情に気付いたのか、トリューニヒトは小さく鼻で笑う。

「だからこそ私は君に最初からこう言わなければならなかったんだね。『国防委員会理事として命じる。貴官の作成したレポート一切を私に提出したまえ。国防委員会機密文書として処理する』、と」
「……」
「防衛ドクトリンの変更は、あくまでも政治側が主導していか
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ