第101話 憂国 その1
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成は統合作戦本部戦略一課の仕事であり、また実際所属課員によって各種毎年のように作成されているが、何故か大半がイゼルローン攻略戦の必要性を補強するものばかり。これは最初から宇宙艦隊司令部と統合作戦本部がタッグを組んで、艦隊戦力強化の為の予算取りの補強資料として作成しているのが理由だ。
俺のレポートはそんな軍主流のドクトリンに対して真っ向喧嘩を売るものであり、膨れ上がる国防予算の半分を起債によって賄うような内容から言って素人が見ても『夢物語』と一笑に付されるような代物だ。だが少なくとも原作でヤンがイゼルローン要塞をペテンで陥落させるまでの五年間に失われた、最低でも五個艦隊六万隻に及ぶ艦艇と約七〇〇万人の労働生産人口と比較すれば、起債による国家財政不健全化の方がはるかにマシだと俺は思う。まして帝国領侵攻で三倍満になるような事態は絶対に避けなければならない。
レポートを作成している最中、チェン秘書官は特に何も干渉らしいことは仕掛けてこなかった。俺が何らかのレポートを作成していることは恐らく察しているだろうし、俺の気が付かない方法で未完成の内容を調べている可能性はある。私的な文章と考えているのか、それとも彼女の『ボス』があえて見逃すように指示しているのか。それは分からない。
ただこのレポートを怪物に提出すれば、喧嘩を売られた形になる戦略一課は間違いなく俺に敵意を持つ。身の程知らずの夢想家として人事に干渉して左遷くらいは平気でする。宇宙艦隊司令部も支持するだろう。シトレの腹黒親父もビュコック爺様も、現時点ではそれを覆すだけの力を持っていない。二人に言えば『絶対に提出するな』と言うのは容易に推測できる。言葉だけならともかく現物として提出すれば、俺が怪物に「擦り寄った」と考えてもおかしくない。
しかしそれでも機動縦深防御ドクトリンとイゼルローン攻略の継続による国家へのリスクついて、政治側の人間が現時点で明白に認識しておかねば、同盟の国家としての衰弱死は免れない。元々人口において一.八倍の差がある帝国と戦っているのに、戦争における損害が同数であれば、先にノックアウトするのは自明の理だ。せめて二倍近い損害を与えなければ、勝利はおろか引き分けにすら持ち込めない。
誰かに相談したいが、誰にも相談できない。自分で勝手に作っておきながら、結局持て余しているレポートを前に苦悶する愚かさ。いっそのこと何事もなかったように廃棄すべきではないかと思わないでもない。人間関係が原作のシナリオとは僅かに異なる位で、大きな流れは変わっていない。レポートを怪物に提出したところでなにも変わらず、ただ自分の首を縄に潜らせるだけではないのか……
来季予算審議に向け財務委員会側からの税収想定提示が終わり、さらにはダゴン星域に帝国軍が侵略してきて惑星カプチェランカが
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