第101話 憂国 その1
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ではなく握手で。それがここでの流儀ならば、それに従う。そうやってミローディアスのシャトル発着ラウンジでバウンスゴール大佐と別れると、出口でチェン秘書官がいつもの白黒スタイルで待っていた。
「いかがでしたか。『ツアー』の方は?」
朝に同伴拒否したのを根に持っているのか、少しばかり棘がある口調だがそれは演技だろう。そうやすやすと来れないこのホテルに金髪を呼べるのは彼女しかいない。はじめから金髪には話を通し、アイランズを『ツアー』から一時離席させるのも計画の一つだったのだろう。トリューニヒトの使える『カード』を一枚増やす為の。
「実に有意義だった。有給休暇を使っても惜しくはなかった。ところでアイランズ先生は今、お忙しいかな?」
「そのようですわ。夕刻にはご一緒できるとは思われますが」
「お忙しいようだったら、『視察報告』は地上に戻ってからにするとお伝えしてくれ」
「承知いたしました……ところで、なにか良い事でもございましたか?」
チェン秘書官がそう言うからには、おそらく俺は無意識のうちに笑っていたのかもしれない。そう考えれば、有給休暇を潰された感じではあるが、結果としては良かったのだろう。この任務に就いてからずっと、道路標識どおりに歩いてきたような気がする。それで間違いではなかったし、軍部・官僚・政治家の円滑化を推進できたのは間違いないが、やはりどことなく気が抜けていたのかもしれない。
「たぶん。良い事だったのだろうと思う。地上に降りたら、ちょっと忙しくなるだろうね」
そう俺が応えた後、チェン秘書官がちょっとだけ不満そうな顔を見せたのが、俺にとっては痛快だった。
◆
それから俺はほんの少しだけ仕事のやり方を変えることにした。
民間の面会者については今まで通り目的や希望を掬い取って、関連する軍組織や国防委員会部局に対してアポを取ることは変わらないが、相手にこちらの階級とか職責とか意識させず、ただの二六・七の若造と意識させ、キャバ嬢のように会話は趣味の話を交えてゆっくりと、私も板挟みで大変なんですよと同志愛を囁きつつ面会者が抱えている公私両方の不満を聞き出し、心がほぐれたところで相手の仕事の中で自慢したいことを好きなだけ喋らせるようにした。
官僚や軍人に対しては仕事においてはスタンスを変えず理詰めで話をするが、その話の前後で軍内部の経験について少しだけ話を零すようにした。武勲譚のような勇ましいものではなく、爺様の拳骨の痛さとか、ブライトウェル嬢の珈琲の味とか、参謀の多彩な趣味(カステル大佐の料理やモンティージャ大佐の地質研究)とか。実戦経験のない官僚達は軍人もごく普通の人間なんだと理解してくれるし、軍人側は同じような経験をしてきているから「俺んところではねぇ」と思わず零してくれて、色
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