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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第101話 憂国 その1
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 宇宙暦七九〇年一〇月から バーラト星系 惑星ハイネセン
 
 造船ドックの見学を終えた後、ホテル・ミローディアスに戻ると、オールドバーラウンジ『アクア』での接待でベロベロになったアイランズに頼んで、『外泊証明書』にサインをさせた。俺の後ろでチェン秘書官が僅かに首を傾げていたが個人的なことだ。多少文字が曲がっているが構わない。

 翌日、二日酔いが酷いアイランズはミローディアスに残るということで、俺は一人でバウンスゴール大佐と他のドックや兵器工廠の方を回ることとなった。ただホテル専用のシャトル発着ラウンジで、どこかで見覚えのある艶のある若い金髪の女性とすれ違ったので、アイランズの体調は気にしないことにした。

「仕方ありませんなぁ」
 俺が最敬礼でアイランズの不参加を告げると、バウンスゴール大佐は頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。
「まぁこれはこれで、ボロディン中佐と個人的に三ランク上のお話しが出来そうなので、こちらとしても願ったりかなったりですよ」
「三ランク上?」
「昨日のアガートラム、戦闘士官の立場から見て、貴官はどう思った?」

 大佐の口調が急に軍の平常に戻ったので、俺も観光客モードから通常モードに更新する。どう思った、とは実にファジーな質問だ。軍人とはいえ優れた技術者でもある大佐が、技術者ではないとはいえ一応の軍人である俺にそんな抽象的な質問をするというのはおかしい。

「お聞きになりたいのは個艦の運用についてでしょうか? それとも別のことでしょうか?」
「流石、首席殿。技術者の性分をよく分かっておられる」
 意外とがっちりとした体格のバウンスゴール大佐は、シャトルのシートに深く腰を押し込みつつ、腕を組んで天井を見上げて呟くように言った。
「もう限界なのだ。現在のアイアース級の機関余力は」
 その言葉の裏に込められる苦難は察して余りある。

 巨大戦艦といえども、艦隊戦における戦力としての意味は本当にささやかなものでしかないのだが、用兵側としては搭載できる可能な限りの火力を艦に配備したいと考えている。それは国力で劣る同盟軍の宿命であり、大口径・強力な主砲を少数配備するよりも、威力・射程はとにかく面を制圧する為に各艦の主砲門数を多くしたい。艦隊戦における必要火力は点ではなく面である、というのはロボスの言うとおり、同盟軍の基本スタンスだ。

 全長一〇〇〇メートル弱、全幅七二メートル弱、全高三六〇メートル弱のアイアース級は既に二〇隻前後が建造され、適時改修・改造も行われてきているが、プラットフォームの拡張余地はもう限界にきている。砲火力の増強にしてもシールドの強靭化にしても、搭載できる核融合炉の飛躍的な容積出力比向上がない限り意味がないのだが、この新型艦船用核融合炉の開発が遅れに遅れている。

 ア
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