暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪
第三部 1979年
迷走する西ドイツ
忌まわしき老チェーカー その1
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が行われていた。
 議長を始めとする党の重役、シュタージ長官や内務省大臣(警察庁長官)などの治安関係者、国家人民軍情報部を前にして、中央偵察総局(HVA)の副局長、ダウム保安少佐は、質疑応答に応じていた。
彼は、ユルゲンとアイリスディーナの母である、メルツィーデスの再婚相手であった。
「アクスマンが、BND経由でCIAに文書を渡したという記録は残っているのかね」
内相の問いかけに対して、ダウムは、
「彼は、極めて変質的な人物として、私たちの中では有名でした」
「変質的とはどういうことかね」
 アーベル・ブレーメの問いに対して、ダウムは理路整然と応じた。
「BETA戦争で、ポーランドやハンガリー経由で逃れてきていたドイツ系ロシア人の事を……
西側に、高値で売っていたのです。
特に見目麗しい子供などは、養子斡旋の取り組みを通じて、西ドイツの素封家などに……」

「本当か」
「気に入った人妻などは囲っていたそうですが、東ドイツ国籍に書類を偽造して、横流しをしていました」
 ダウム少佐の証言は、以下の通りだった。
アクスマンは、何時の頃からか高圧的に指導するKGBの事に嫌気がさして、西との密貿易に関与するようになった。
それは物品や国家財産ではなく、シュタージが捕縛した外人や不法移民であった。
 西ドイツの囚人買い取りプログラムを悪用して、東ドイツに亡命してきたドイツ系のロシア人の身分証明を偽造して、人身売買に手を染めたという事であった。
 中には志願して、ロメオ工作員になった男性や、ハニートラップ要員になった女性もいた。
だが、大部分は彼が西ドイツにいる金満家に売り払った被害者だった。
変質的な性欲解消を求める顧客に対して、眉目秀麗な男児や美少女を選抜して送り込んでいたという。
 時々、KGBの連絡員の機嫌を取るために、大々的な接待をしていたという。
また、人身売買の売り上げ金の2割を上納し、モスクワへの連絡をさせないなどの裏工作を行っていた。

「実はアクスマン君に一度、なぜ、その様な取引しているかと聞いたことがあります。
そうしたら……」
「もうよせよ。みなまで言うな」
 ダウム少佐の話をさえぎった議長は、話の途中からアクスマンが狂ったのは、この国の体制に原因があると気がついていた。
 それにしても、対西ドイツ諜報で手柄を上げた人物が、西ドイツの闇社会とつながっていたことを信じられなかった。
 非は、東ドイツ政府と、SEDの指導部にもある。
そのことは、議長に重くのしかかった。
 過ぎたこととはいえ、どうすればいいのか。
米国の諜報機関までを巻き込んでいて、余りにも問題は大きくなり過ぎていた。
だが、一刻も早く解決の糸口を見つけねば、ならないことは確かだった。
「同志ダウム少佐、いらぬ心配を
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