第一章
[2]次話
人道的なこと
日本の首相である東条英機の前にドイツ大使館から外交官が来た、そのうえでドイツ語がわかる彼に対して言っていた。
「我が国の政策はご存知ですね」
「無論」
東条は自分の席に座ったまま確かな声で答えた。
「この件についてもな」
「我が国はユダヤ人を排除しています」
外交官はこのことを言った。
「そしてそれをです」
「政策にも反映させているな」
「総統閣下の言われるままに」
こう言うのだった。
「そうしています、ですから」
「貴国を出て上海等にいる彼等をだな」
「引き渡して欲しいのです」
東条に強い声で言った。
「是非共」
「そしてだな」
「彼等には然るべき報いを与えます」
これまた強い言葉だった。
「ドイツそして世界を乱している悪行への」
「共産主義の裏には彼等がいて」
東条はこのことを自分から言った。
「そしてだな」
「はい、何かとです」
「陰謀を企んで蠢いている」
「極めて邪悪な者達です」
「だからだな」
「彼等には報いを与えないといけません」
絶対にという言葉だった。
「ですから」
「彼等を貴国に引き渡せというか」
「お願い出来ますか」
「彼等は日本が占領している地域にいる」
東条は静かだが強い声で答えた。
「それならだ」
「貴国が決定されますね」
「その権限がある、そしてそれを決定するのはな」
「閣下です」
「首相である私がな」
「この国の」
即ち日本のというのだ。
「左様です、そして我が国としては」
「総統閣下としてもか」
「はい」
胸を張ってまさにと答えた。
「是非です」
「彼等を貴国に引き渡して欲しいか」
「そのことをお伝えします」
「わかった、暫く考える」
東条はドイツの外交官に毅然とした声で答えた。
「そしてだ」
「そのうえで答えて下さいますか」
「そうする、少し待っていてくれ」
「吉報をお待ちしています」
外交官は東条に不敵な笑顔で応えた、それはドイツの国威とヒトラーの権威を背景にしているからこそだった。
東条に言うことを聞かせる、そのつもりだった。そのうえで彼は東条の前を後にしたが彼が去ってからだった。
東条は外相の松岡洋右、眼鏡と口髭があるのは自分と同じだが背広を着て黒髪を生やしている彼に対して言った。
「私の考えは変わらない」
「ユダヤ人はドイツに引き渡さないですね」
「そうだ、ナチスのユダヤ政策は知っているな」
「反ユダヤ政策ですね」
松岡はこう答えた。
「文字通りの」
「彼等を徹底的に迫害するな」
「その通りです」
「若し彼等を引き渡すとだ」
そのドイツにというのだ。
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