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星々の世界に生まれて〜銀河英雄伝説異伝〜
激闘編
第八十五話 激戦の予感
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して使用すると帝国の経済活動そのものに悪影響を及ぼす。昨年の戦いでハーン側から会敵したのはノルトハイム兄弟の機転によるもので、案の定あの戦いの後はフェザーンから苦情が出ていたという。フェザーン…帝国を宗主国とする自治領なのだから帝国の軍事行動に文句を言うなどあってはならないのだが…だが今やフェザーン無しでは帝国は成り立たない。叛乱軍との交易が黙認されているフェザーンの存在があるからこそ向こう側の情報が入手出来る。たとえそれが叛乱軍の公式発表に過ぎなかったとしても、情報を得る事が出来るというのは大きい。だが弊害もある。帝国の自治領とはいえフェザーンは別国家に等しい。彼等が彼等自身の利益の為に帝国、叛乱軍の情報を使用するのを止める事は出来ない。

 会議室を出ると、メルカッツに呼び止められた…ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ中将。外連味の無い堅実な用兵に定評のある男だ。
「ミューゼル提督は艦隊司令官としては此度は初陣だったな。卿はどう思う、此度の戦いを」
「元帥閣下は麾下の艦隊の実力を試したいとお考えです。その為には必要な戦いだと思いますが…メルカッツ閣下には何かご懸念がお有りですか」
「…いや、何も無い。ただ、叛乱軍が此方の思惑通りに動いてくれるかどうかが気になってな」
「叛乱軍が、ですか」
「そうだ。戦局の主導権を握っているのは奴等なのだ。だが叛乱軍は自らを受動的な立場に置いて戦っている。奇妙だとは思わんか」
「そうですね…奴等のアムリッツァ堅守の姿勢は理解出来ますが」
「我々は誘い出されている、そうは思わないか」
「…叛乱軍は我々の誘引撃滅を企図している、と?」
「そうだ」
おそらく、というか確実にそうだろう。一昨年はともかく、昨年の叛乱軍の行動は我々の誘引撃滅を狙った物だ。メルカッツの言いたい事は解る。無理に戦わない方がいいというのだろう。むしろ奴等を誘い出すべきなのだ。だが叛乱軍は出て来ない。出て来ない以上此方から出向くしかない。誘い出す策はある。だがその策は非常に危険度の高い物だ。帝国内の状況が安定していないと無理に近い。絶対に勝てる、という自信、確証が無いと実行出来ない策だった。

 「おそらくそうでしょう。たとえそうだとしても、我々は進まねばなりません。皇帝陛下の御心を安んじる為にも」
皇帝陛下の御心か、こういう言い方しか出来ない自分の地位が恨めしい。
「皇帝陛下の御心か…そうだな、全くその通りだ」
そう言うメルカッツの表情は変わらなかった。内心では理解しているのだろうが、ひたすらに軍人たろうとしているメルカッツが羨ましくもあり、歯痒くもあった。



9月24日04:00
アムリッツァ星系、カイタル、自由惑星同盟、自由惑星同盟軍、アムリッツァ方面軍司令部、
ドワイド・D・グリーンヒル


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