第100話 半端者
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的多数の工員からは諸手をあげて歓迎された。
「そして次は少将のご家族がここに来られたことですね。あれで一気に船渠の雰囲気が変わりました。確か少将の一番下のお嬢さんだったと思いますが、当時建造中だったリオ・グランテの主任工程管理者をひっ捕まえて、自動溶接マシンの運転台に乗り込んでリオ・グランテの外殻構造を現場まで見に行きましたからね」
「ラリサだったかぁ……」
興味があることがあればとことん突き進む。知識欲の権化のような末妹の行動に右手を目に当てた俺に対し、バウンスゴール大佐は含み笑いで応える。
「あれからここで働く人間の家族ならば年二回、事前に申し込みをすれば誰でも見学OK。一応の『身体検査』と、場内での禁止事項はいっぱいありますが、家族が見学に来た作業員は公休扱いにすることで、『仲間』に恥をかかせるなって連帯感が生まれて士気も上がり、工程管理もずっとやりやすくなりましたよ」
もっともおかげさまで私の仕事にツアーガイドも加わってしまいましたがね、と頭を?きながら苦笑するバウンスゴール大佐を見て、俺は心の中でグレゴリー叔父に感謝した。
本来ペーペー中佐の俺に、バウンスゴール大佐が丁寧語を使うことはない。もちろん大佐自身の温厚な性格もさることながら、俺の後ろにいるグレゴリー叔父に対する敬意と感謝があるからこそ丁寧に応対してくれている。
俺は一体どれだけ恵まれているのだろうか。そして恵まれた環境をどれだけ活かしきれているのか。与えられた政治力にしても人脈にしても、同盟存続の為にどれだけ使いこなしているのか。どれをとっても全く自信がない。
「あの艦はもう名前が決まったいるのかね?」
バウンスゴール大佐に問うアイランズの声に、俺は顔を上げてメインスクリーンに映る建造中のアイアース級戦艦を見つめる。センサー・通信構造体が後方上に突き出した、アイアース級としては特異な艦橋仕様。通常の正面主砲ブロックだけでなく船体下方にも主砲ブロックがあり、総主砲門数は六四門。横から見ると背中が涼しく、巨大戦艦としてはアンバランスな印象がぬぐえない。次世代旗艦用大型戦艦の試作艦として建造されながらも中途半端な能力で以後量産されることなく、やはり道具は使い手次第という代表例となってしまった艦……
「現在はA一三〇−F五−BX一ですが、いずれFBB−三一『アガートラム』と呼ばれることになるでしょう」
ところどころ深紅の耐熱塗料素地が見える新品の黄唐茶色の船体が、見ているお前も同類だと自虐的な笑みを浮かべているようにしか思えなかった。
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