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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第100話 半端者
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兵廠と交渉しても、案内役は中尉か大尉。見学できる範囲は限られてしまう可能性がありました。アイランズ議員が同行することで、造兵廠側も態度も変わると考え、勝手をいたしました」

 そんなことはアイランズの登場した時点で分かっている。国防委員会参与が造兵廠に来るというのは、公的ではなくとも視察と受け取られ、造兵廠側も余計な腹を探られたくないから対応には慎重を期す。おそらくは造兵廠の責任者か副責任者か参事官が対応することになる。彼らにとってみればいい迷惑だ。

 そしてただ造兵廠の見学だけでは出てこないであろうアイランズを引っ張り出すために、餌としてVIP待遇とミローディアスを手配した。俺に対する善意でとれば単純な話だが、俺に何も言わずに事を進めるのは別の意図があったのかもしれないが。
 
「配慮してくれたことには感謝するが、俺の有休に評議会議員を巻き込むようなことは慎んでくれ」
「はい」

 恐縮するようなチェン秘書官の声を背中に、俺は表情を戻してVIPルームに戻ったが、待っていたのはアイランズの意味深なニヤケ顔であった。車は新車よりも中古車の方がいいだの、夫婦円満の秘訣は家計のやりくりだの、アイランズでなかったら顔をぶっ飛ばしてやるような雑談を延々と聞かされ続け、造兵廠から迎えに来た恰幅のいい若髭の大佐が後光を放つ天使に見えた。

「お待たせして申し訳ない。ハイネセン第一軌道造兵廠第一造船部主任のジェフリー=バウンスゴール大佐です」

 声も姿も人を落ち着かせるような深さがある。胸に輝くYの徽章は技術士官の証。即座に起立して敬礼する俺に、堅苦しさとは無縁のゆっくりとした敬礼で答えるその姿だけで、人格が慮れる。アイランズ相手に卑屈にならず、かといって隔意があるわけでもない。その自然体な立ち居振る舞いに、俺はそれまでのイライラが何処かに吹き飛ぶようだった。
 アイランズもそう感じたようで、いつもなら軍人相手に意気高々な態度をとるにもかかわらず、スッとソファから立ち上がると、右手をバウンスゴール大佐に差し出した。

「国防委員会のアイランズだ。今日と明日、よろしく頼むよ」
「勿論です。ご期待に沿えるかは分かりませんが、精一杯務めさせていただきます」

 さぁどうぞ、とアイランズの横に立ちながら出口を促す動きも実に自然。恐らく初対面であろうに、まるで一〇年来の友人のように応対する。シャトルまでの会話も自然で、明らかにド素人のアイランズに対しても知識をひけらかすような真似は一切せず、簡単な雑談から造兵廠に興味を持ってくれたことへの感謝を含めつつ、造兵廠の仕組みや組織の説明を的確に言葉短く説明していく。二人の後ろで聞き耳を立てているだけの俺でも、いつの間にかこれから遊園地に向かう小学生のような気分になっていく。

 軍のシャトルに移
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