第100話 半端者
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とすると他のコネクションなのか、面会者の誰かなのか。俺自身の能力ではおそらく追い詰められないところからだろう。
「詮索はこれ以上するつもりはない。だが、少なくとも上官の有給休暇日の行動に関して、勝手に干渉するのはこれっきりにしてもらいたい」
「もちろんです。出過ぎた真似をいたしました。以後気をつけます」
目にはうっすらと涙が浮かび、身長差から俺を見上げる形になるチェン秘書官の顔は、一見すれば心の底から謝罪しているようにも見える。いきなりこの顔を見せられたらわからない。だが彼女が本気で反省とか謝罪とかをしようとする気がないのは明らか。
冷静に冷静にと脳が身体へ呼びかけるが、俺の体は本能的にチェン秘書官に向けて小さく一歩ずつ前へと動き出す。最初の一歩の時。うるんだ瞳の奥にはまだ余裕があった。だが二歩・三歩と進むにつれ、それが消えていくのがはっきりとわかる。彼女の瞳に映る俺の顔は明らかに人殺しのそれに近い。
チェン秘書官がバグダッシュの言う通りアラフィフのCの七〇ならば、海千山千の経験をしてきた凄腕だろうから、ペーペーの中佐如きの脅しなど屁でもないだろう。操り人形が急に反抗してきた。せいぜいそのくらいの感覚だとは思う。
勝手な想像だが、味方が一人もいなかったピラート中佐にしてみれば『唯一の』部下であり、チェン秘書官にしても敵だらけの中佐は実に都合のいい相手だった。多くの便宜を図ることで中佐の弱みを握り、時には任務を隠れ蓑にして好き勝手に中央情報局が国防委員会に対して何らかの工作をしていたとも考えられる。
そちらには目をつぶり、俺は俺の目的を果たすべく有能な秘書官としての彼女を使えばいい。そう考えないでもないが、無駄で無意味だとわかっていても、面従腹背のこの女狐に一言言ってやらないと気が済まない。傷一つない壁と俺の左上肢の幅にチェン補佐官を追い込み、口を開いたその時だった。
「ボロディン君、ちょっといいかね……あ、あぁ、いや、すまなかった。お取込み中だったようだな」
VIPルームからひょっこり顔を出してきたアイランズが、俺とチェン秘書官の『壁ドン』状況を見て、前世の家政婦のように顔色を変えてルームへと戻っていく。
明らかに殺気立っていた段階でのとぼけた闖入者に、穴が開いた風船のように気が抜けた俺は、壁に背をつけたままのチェン秘書官から距離を取った。乱れてもいない制服を引き延ばし、襟マフラーの形を整える。
「……アイランズ先生に感謝するんだな」
「えぇ……大変申し訳ございませんでした」
今度は腰を直角に曲げるお辞儀で応える。先ほどに比べれば、遥かに謝罪の気持ちが籠っているように見えた。戻ってきた顔には先程までの甘さは感じられない。
「ただこれは言い訳ではございますが……中佐ご自身が造
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