003 教授と博士とマティルダ
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、怒りも、醜ささえ交じり合いながら、それでもなお輝きを失わない。
どのくらい彼女の話を聞いていたのだろう。どのくらい、見つめていたのだろう。
この顔をずっと見ていたい。と、思った。
「同居人から、始めよう。」
自然と口から出た。
「・・・・で、そのとき私は・・・・え?」
あれだけ豊かに変化していた彼女の表情が、一瞬にして硬直した。
この顔を見たいんじゃ、無いんだ。ちゃんと聞いてもらわなくては。
「あなたの言ったとおり、同居人から始めたい。」
表情がさらに硬くなる。
「・・・ありがとう、でも同情で答えてほしくないの。私のほうから誘っておいて、本当に申し訳ないけど、自分の過ちをあなたの過ちで修正なんてしたくないし、出来るはずも無いわ。」
「誰も過ちなんて犯していない。まだ始まってもいないんだから。」
少しだけ、言葉に力を込めた。思いを、気持ちを伝えたい。
彼女の、コーヒー色の瞳が私を見つめる。
「そうだろう?」
表情が幾分柔らかくなった。
ああ、彼女も、何とか自分の思いを伝えようとしていたんだな。
「この,天使が運んできてくれた出会いを、貴重に思いたい。大切にしたいんだ。」
ちらりと視線を二階に向け、彼女に向き直る。
彼女の表情と、から全体からすっと力が抜けて、柔らかくなった。
「結婚は、私があなたを愛しているという確信がもてたら、私があなたに申し込む。それまで待ってくれ。」
決めてしまった。言ってしまった。まったく、私もどうかしている・・・でも、わかっている。絶対に後悔しない。
「・・・ありがとう・・・そのマティルダのことだけど・・・」
「君の娘だろう?それでいい、充分だ。」
彼女は握ったままの私の右手を拝むように持ちながら自分の頬にあてがった。小声でつぶやく。
「・・・ほら、私の人を見る目は絶対に確かなのよ・・・」
女の涙も、やわらかくて暖かいんだな、と思った。
彼女のおおらかな性格には、秘密とか、隠し事とかそんなものはほとんど通用しない。
行動もストレートだから瞬く間にアカデミー内でうわさが広まる。
また彼女も明るく肯定する。
あっという間に“誰もが納得しないカップルNo.1”と呼ばれるようになった。
彼女は逆に面白がり、聞かれるままに図書館でのエピソードまで喋ってしまったのには参った。
私にしても、三十年の人生でこれほど注目を浴びたのは初めてだ。
これをネタに、どこぞの誰かがまた印税を儲けるのだろう。
やれやれ。
この半年後、アメリアは次の研究所に一人で出向していった。
籍を入れたのはさらに半年後だった。
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最近のVTOLは性能がいい。
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