003 教授と博士とマティルダ
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わ。本当に、心から・・・」
いまさらそういわれてもねぇ・・・
「・・・言い訳になるけど、あのときの私にとって、あなたのことを知るということは、宝箱の中身を知ることに等しかったのよ。」
意外なほど申し訳なさそうな顔をしている。あんなにあっけらかんとした人なのに。
そんなに私は怒った顔をしているのか?そんなつもりはないのだが・・・
「あなたの誕生日は私の記念日になり、あなたのご両親のことを知ったときは一晩中泣きはらしたわ・・・」
うつむき加減で告白する声がだんだんと小さくなっていった。
「・・・でもそのあと数ヶ月して、星系外の研究所に移ることになった。これくらいは知っていたわよね?」
「・・まぁ、ね・・・」
「本当かしら・・・この、あまりに早いほかの研究所への移動はとても条件の良いもので、この時この研究所へ行っていなければ今の私はなかったと思う。」
「それは、まぁ、わかる。」
「十二年間、いろいろあったわ。でもそれなりにひと段落した。そして、母校での教鞭をとる機会が巡ってきた。気まぐれで開いた母校のデータベースの臨時教授にあなたの名前があった・・・」
彼女が右手を差し出してきた。釣られたように私も手を出す。
私の右手を握り、自分の右手の甲が上になるように手首を返した。
「ここ、うっすらと、見えるでしょう?」
女性らしい、繊細な手に握られるのは何ヶ月、いや何年ぶり?
「ドクターに見せなったのかね?」
首を横に振りながら、微笑んだ。
「痛みは無かったし、それなりに忙しかったからね。でも、この痕に気づいたのはつい最近なのよ。」
確かに、よく見ないと気づかないくらいの痕。ほんのちょっとした色の違いといってもいい。
「母校のデータベースであなたの名前を見て、この手の痕を見て、いてもいられなくなって、来てしまった・・・あーあ、我ながら何やってんだろうね!!」
元の表情に戻った。
「やっぱりだめね。なんか私の頭の中だけで全部ストーリーが出来てしまっていたのよ。なんとか博士とか呼ばれていながら、もう、馬鹿丸出しね。」
やはりこの人には明るい顔が似合う。
憑き物が落ちたように、色々と話し始めた。
アカデミーを出てからのこと、最初に実用化した機器のこと(なんと、家庭用品だった!)、その後の特許の扱い方や利権のトラブル。
さして高くない研究員としての本来の給料以外は、とある財団法人に自動的に寄付されるようにしているらしい。
ホテルを丸ごと買うなんて、到底無理な話しだ。付き合ってきた男性の話まで、出た。
昼にカフェで会ったときから、明るい笑顔とおおらかというかぶしつけというか、とにかく個性的な言い回しをしていた彼女だが、それでもまだ被っていた仮面があったのだろう。
今は本来の彼女の顔が、表情があった。明るさも、美しさも、悲しみも
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