003 教授と博士とマティルダ
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ばらくこのままにしていてください。熱さえとってしまえば、大丈夫なはずです。」
そういって、すすいできたらしい自分のハンカチで、今度はコーヒーのこぼれた机を拭き始めた。そして床も。
「ご、ごめんなさい、いやだ、わたしったら、何してるんだろう・・・」
青年は優しく微笑んで、言う。
「大丈夫、心配しないで。」
しゃがんだまま私の手を取り、タオルを裏返して巻きなおす。冷たさが心地よかった。
「ごめんなさい・・・ありがとう。」
床を拭き終わったらしい青年がハンカチを横に置いた。
「ちょっと失礼・・・」
ゆっくりとタオルをはずす。人差し指で私の手の甲をなぞった。
背筋に電撃が走り、頬が紅潮してくるのが分かる。
「痛いですか?」
「・・い、いえ・・・大丈夫です。」
「うまく荒熱は取れたようです。このままでも大丈夫だとは思いますが、女性ですからね、ドクターに見てもらう事をお勧めします。」
「女性、だから?」
「肌に痕が残るのは、お嫌でしょう?」
そういって濡れたタオルとハンカチを持って、青年は行ってしまった・・・
「・・・うそぉ?」
「やっと、思い出した?矯正したから、眼鏡は必要ないんだけど、賢そうに見えるそうだから伊達をね、持ち歩いているの。」
髪を元に戻しながら彼女が言った。
「え・・でも・・あの・・いや・・・・え〜!!」
カーペットに正座したままでいることも忘れている。この日二回目のパニックだ。
「初恋、しかも一目ぼれだったなんて、信じてもらえるかしらね。」
心持ち頬を紅潮させながら微笑んでした。でも多分私の顔のほうが紅かっただろう。心臓もバクバクしていた。
「・・・でも、もう十二年も前の話じゃないですか。」
何で十二年前に言ってくれなかったんだ、などとは言ってはいけない。それくらい、わかるよね。
十二年越しの告白。
だからといって、いきなり同居だ、結婚だ、になるものかね?
「そうよ、だから純潔を守り通してきたなんていわない。恋もしてきたわ。今はフリーよ、もちろん。でも、そんなこんなの三十四年間で今の私があって、巡り巡って初恋の人が勤めているアカデミーで働けることになった。」
「私のこと、知ってたんですか。いや、どうやって知ったんです?」
「そりゃあ、十二年前のあの図書館の出来事のあと、いろいろとあなたのこと調べたから。」
「いろいろと?」
「そう、いろいろと。さっきも言ったように、アカデミー内ではそれなりに名が通っていたから結構無理を利いてもらえたのよ。」
「うーん、知らないところでプライバシーが侵害されてたんだ・・・」知られて困るようなこと、何かあったかな?
「侵害なんて生易しいものではなかったかもね。どんな些細なことでも知りたいと思っていたから。」
おいおい・・・
「気を悪くしたなら謝る
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