003 教授と博士とマティルダ
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取ることだってできるに違いない。
「住むところが決まってなくて・・・ね。まったく・・・」
食後のコーヒーは日課のようなものだ。自分で豆を挽いて入れる。
凝った機械は使わない。普通に紙フィルターで飲みたいときに、飲む分だけ入れる。
今日は二人分だが、量としては三人分以上作った。
話が長くなるかもしれないと思ったからだ。
「ああ、いい匂いね。少しもらってもいいかしら?」
「そこに座って待っててください。」
お湯をカップにも注ぐ。コーヒーを注ぐ前に、カップを暖めておくのが私のやり方だ。
ゆっくり、それほど高くない温度のお湯を挽いたコーヒーの上にたらす。たらしていく。
お湯が全部の粉にいきわたったところで、しばらく蒸らす。
「うわぁ、コーヒーって、こんなに香りが出るものなの?」
「ふむ、豆にもよるし温度にもよりますよ。」
「あとは、腕にも、ね。」
「腕、というほどのものでもないな。コツはあるような気がするけど。」
粉の高さを超えない程度に、減った分だけお湯を注いでいく。少しずつ、ゆっくりと。
「ま、毎日入れていればなんとなくわかってくるものです。はい、どうぞ。」
「ありがとう。」
自分のコーヒーを持ち、彼女の向かいに座った。
「もう、彼女は寝たんですか?」
「ええ、やっぱり、相当疲れていたみたい。」
そのあと、しばらくはお互いに黙っていた。
一方は何かを言わなければいけないと思い、一方は何か聞かなければと思っている。
しかしこうしてコーヒーの香りに浸っているうちに、きっかけを見失ってしまったようだ。
食後に好みの女性と二人っきりのコーヒータイム。
夢にまで見た光景のはずなんだが、あまりにも現実感が無い。
私が信じていないのだ、この現実を。信じれるわけが無い。
「・・・おいしいコーヒーって、こんなに気分が良くなるものなのね・・・」
「いままで眠気覚ましのためだけに飲んでいた人の言い方だ。」
「うん、眠気覚ましのためだけに飲んでいた。」
もう一口。
なんか、なごむなぁ。これが現実だったら・・・。
「美味しい・・・いつもこれを飲んでいると、アカデミーのやつなんか飲めないでしょう?」
「それはそれ、これはこれです。・・・ま、私のデスクにコーヒーメーカーを持っていっていますけどね。」
「あはは、やっぱり飲めないんだ。」
「いや、やっぱり飲みますよ、眠気覚ましのためにとか。」
なんとなく、お互いに微笑を交し合った。
深い瞳だな。私は思った。深い色。コーヒーの色に似ている。
自分のカップの中のコーヒーに目を落とした。
この奥に、いったいどのような思いが隠されているのか。
「・・・・なぜです?」
コーヒーに話しかけるように、そっとつぶやいた。
彼女の視線もいつの間にかコーヒーに注がれている。
「何
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