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『外伝:紫』崩壊した世界で紫式部が来てくれたけどなにか違う
【視点転換】帰還の為の免罪符-終幕-
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ものを失った。彼は実験動物のように扱われた。その結果人間で居られなくなり、化け物となり、助けが来なければあのまま殺されていた。アタランテが言っていた。祐介は許していないと。ただ仕切りをつけているだけで、その暴挙は許せるものでは無い。

───だから──

「まぁ、難しい問題だよな」
「え?」

 いつの間にか祐介が、そう言ってこちらに背中を見せたまま、心の中を覗いたような言葉を放った。語尾がまた無くなっている不安定さは置いておくとしても平然とした状態とは思えないほどその言葉にはどこか重みを感じた。

「どうしても人が作る世界だから誰かが幸福で、誰かが不幸で。そんなことも当然ある。だからこの世界でも、不幸な人は沢山いる。俺も、葵も知らないところで、誰かが死んで、苦しんで、泣いて、もがいている」

 例を挙げるのは簡単だろう。サーヴァントのいない地域にいる人達なんかは特に。彼らにとってカルト宗教達は救いの手であり、ストレス発散にだってなる。善も悪も物事を一方的に見た時の力でしかないという必然は上から布をかぶせたように大まかな形しか把握されない。

「私は恵まれたから、助けるべきだって?」
「まさか。確かにそういう人助けることは、とてもいい事だよ。けど、そうすると人ってのは恐ろしいもので助けられることを前提に考える。気づかいはあくまで気遣いで強制じゃないって、わからなくなるんだ。だからあえて言うなら『好きにすればいい』だろう」

 恐らく祐介が言っているのは何しても無駄だから好きに動け。ということだろう。確かに自分が何かをしたところで世界が変わるなんて思ってないし、変えたいとも思わない。今、香子がいて、普通に過ごせているだけで幸せだ。出来ればカルト宗教達がいなくなれば、もっといい。そんな程度である。
 だから祐介の言い分も理解できる。この事件に巻き込まれる前の自分ならそのまま頷いていただろう。しかし今は違う。別に両親を許せるわけじゃない。人間同盟のやったことは葛城財団等と比べると規模は小さいものの、ただサーヴァント達を虐げているだけだ。そんなことでは何も変わらない。変わったとしても良くはならない。けど、そんな両親も腐っても親であった。
 別に毒親と言われるような酷い人間ではない。ただ、祐介と同じくこの世界に狂わされた被害者の一人。許せない。許せないのに、心の中には何か引っかかるものが出来てしまう。

「...両親が人間同盟の人間なんだ。多分そっちでも偉い人で、信頼されてた。けど、香子の事を悪魔だって言って、無理矢理剥がそうとしてきた。許す許せないの前に訳が分からなかった。でも今は許せない。私は」

 令呪のある腕ごと切り落とそうとした暴挙。愛するものを悪魔呼ばわりした無知による罵倒。思い出せば思い出すほど狂いたくなる。な
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