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『外伝:紫』崩壊した世界で紫式部が来てくれたけどなにか違う
【視点転換】帰還の為の免罪符-拾陸-
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 その為に。

 子供を殺した。
 子供を生かした。

 内臓を取りだし、代わりに生きた虫を入れて循環させ、そのからだそのものを一つの世界とした。世界の卵の理論らしい。
 分からないが、そんなものだろう。
 
 私は、魔術師では無いのだから。

 言葉を捨てた。名前を捨てた。娘と同じ年頃の子供も殺した。身体を捨てた。■■を構成する要素を、全て排除した。そうしなければ勝てない。ひとつの油断で全てを失うという記憶が、行き過ぎた行為へのブレーキを壊した。

 万全の準備を整えた。人の手では倒せない悪魔を倒すために、全てを犠牲にした。無実の子供を誘拐して酷い虐待を行った。いつの間にかそれは、娘と妻への報いのように感じていた。
 ただ、恩返しの為に。恩人の娘を騙して、結界の中に引き入れた。
 綺麗な子だった。落ち着きと、良識があった。戦いを忌避しながらも戦わなければならないという覚悟を持っており、まるで人を魅了する月のような女性だった。
 娘より少し年上だが、あの子にとても似ていた。だからだろう。あの子も、きっとこんな風に生きていられたと思わせるような少女だった。
 そんな彼女を、得たいと心から思ったのは何故だっただろうか。

 そんな彼女を、騙した。
 人を、疑うようなことを知らない少女を、騙した。

 壊れそうなものをかき集めて最後の準備を行う。辺りの傭兵にエインヘリアルの悪評でも吹き込んでぶつけさせておかなければならない。エインヘリアルは強い。無駄な行為は許されない。
 ただ、一人。少女を捕まえさえすれば勝ちなのだから。届ければ、勝ちなのだから。

 被害者(お客様)が一名。
 結界に入りました(いらっしゃいました)
 捕獲を開始します(家の中で持て成します)

◇◇◇

 頭の中で、ガチリと何かが鳴る。
 それが最後の、悲鳴だった。
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