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『外伝:紫』崩壊した世界で紫式部が来てくれたけどなにか違う
【視点転換】帰還の為の免罪符-拾伍-
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が緩んだ。

 今度こそ、両足で地面を蹴り上げて彼の拘束から脱出する。それと同時に自分の右腕があった場所に通り過ぎる剣閃。
 先程の一撃も明らかに右腕を狙っていた。
 狙いは令呪か。

「ありがとう香子。助かった」
「いえ、来ます!」
 
 紫式部に礼を言うのと同時に紫式部の顔色を確認する。ただでさえキツイ状態で術を使ったのだ、顔色は悪い。恐らく高度な術式を使ったのだろう。それでも彼は一瞬怯む程度だった。思わず自分が挑んでいる相手との差を思い知らされる。ここまで倒されて尚、それだけの力がまだ残っているとは。
 そこまで考えた時に、嫌な気配がして本能的に後ろに飛び退く。生存本能が掴んだ『死』の予感。それに驚いて前を向くと目の前に彼が飛び出てきた。

「くっ、あっ!」

─遅い。
 そう言われた気がした。

 右手の甲に刃が突き刺さる。紫式部との繋がりを持った令呪が、血で汚れ、見えなくなる。
 それより強いのは明確なまでに洗練された『痛み』だった。ただのケガとは訳が違う。貫通はしなかったが、冷たい刃が腕の神経を切り落とす痛みは声に出すことも出来ない。

「─────!!!」

 喉が切れそうな程の絶叫。しかしそれが声となり出てくることはなく、痛みのあまり膝が笑い、その場に膝をつく。
 戦闘意欲が一瞬にして薄れ、血が手の甲から溢れ全身を汚していく。
 彼は突き刺した瞬間に刀を離したのか刀がその場にカランと音を立てて落ちる。

「葵様!」
「葵!」

 香子の言葉も聞こえにくくなってきた。
 全身に力が入らない。痛みのあまり、現実と夢が混ざっているのを感じる。

─その夢の中で、家族がいるのを見た。
 人間同盟なんかに入ることなんてなかった、そもそも世界が崩壊していない時の家族。なんてことは無い。特に変わったことのない家族だった。

 彼らがそこにいる。代わりというか紫式部の姿は、そこにはない。
 自分が無くした大切なもの。代わりに紫式部という大切なものは得られたけど、だからといって失ったことそのものが無くなるわけじゃない。
 幻影はこう言いたいのだ。「お前はこっちの方が幸せだろう?」と。

「私は後悔なんてしていない」

 幻影に、強く言い放つ。
 家族は人間同盟のせいで狂ってしまった。サーヴァントを悪魔と言い、差別し続けた。弱かったから、それしか手段はなかったから。そんなことは無い。あの近くには、親切なマスターの人達がいた。マスターじゃない人もいた。彼らが《《それ》》しか見なかっただけのこと。
 そもそも紫式部を悪魔と言い放つ彼らとは縁を結びたくもない。
 残念ながら家族との縁は切れた。

 しかし、本当にそうだろうか。後悔の一つも、本当にないのだろうか。だって家族だ。

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