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『外伝:紫』崩壊した世界で紫式部が来てくれたけどなにか違う
【視点転換】帰還の為の免罪符-拾肆-
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れないんだから。だからやめて。お兄ちゃんになろうとして翔ちゃんが消えないで。お兄ちゃんがいなくなったのに、翔ちゃんまでいなくなったら、私、どうすればいいの?」
そう思って眺めていた自分の目に映ったのは泣きながら力強く抱き締める翔太郎に対して優しく、聖母のようにその背中に手を回す美鈴の姿だった。
彼女は自分が一度の敗北を知り、簡単に見捨てた翔太郎を受け止めてそのままでいて、と言った。
その時は意味が理解出来なかった。彼は神に負けたのだと思っていたから。実際は神ですらない伊達と言われる謎の男に負けたのだが、どちらにしろ負けた上に20人もいたメンバーの中で一人しか生還出来なかったということから切り捨てられるのも無理はない。というより期待を裏切ったと思って見捨てることだって有り得た。
しかし彼女はそんなことをしなかった。それは彼女が翔太郎を慰めたのが彼の強さを信じたらからでは無いからだ。たった一人の、自身の幼なじみを。愛する男を信じて、失いたくないと思ったからだ。
「美鈴...」
「お願い。翔ちゃん。お願いして。私を一人にしないって。もう二度と置いていったりしないで。逃げてもいいから。ずっと、一緒に居て」
翔太郎もそれに気付いたのか美鈴の肩に顔を埋めるように縋り付く。そこから嗚咽が漏れる。それを見て自分はいつの間にか周囲で見守る中の一員になっていた。
「うぅぅっ...あああ、っ。ううっ。うああああ──」
そして今度こそ、彼は大声をあげて泣いた。自分の情けなさに。そしてそれでも願ってくれる仲間に。
その時初めて、自分は何を考えていたのかを思い知らなされた。少し前の自分を殴り飛ばしたくなってくる。自分はずっと、彼一人に戦わせて、或いはサーヴァントに全て押し付ければいい、と深層心理で思ってしまっていた。しかし違う。彼はこんなに子供で、サーヴァントにも心がある。
力が強いとか弱いとかではなく、それはどうしてもあるものなのだ。それを自分はいつの間にか、蔑ろにしていた。そんなものは自分を化け物にしたマスターと同じだ。
違う。違うのだ。人が何かに乗り越えた時は、文明を広げてきた時は、必ず、仲間たちと一緒だった。そんな当たり前のことを、忘れようとしていた。否、考えるのをやめていた。
「翔ちゃん───」
涙を堪える美鈴を見ながら周囲の大人達は無言で立ち去る。彼らも強い弱い関係なく覚悟を決めたのだ。
この組織を復興させる。深澤浩二がそうしたように多くの人達を救えるように。やり方なんて欠片も分からない。だから必ず失敗だらけになるだろう。しかしやってやるというやる気だけはそこにあった。
「ああ、わかった。俺はもう。負けない」
いつの間にか止んだ空の下で、彼はそう言った。
そして翔太郎
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