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『外伝:紫』崩壊した世界で紫式部が来てくれたけどなにか違う
【視点転換】帰還の為の免罪符-拾弐-
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が持たなくなってきている。川本の術式か。もしくは、無意識に祐介に魔力を送っていたか。
 もし後者だとしたら言い訳も何も出来ない。魔力を送った程度では切り傷すら治らないのに、あんな即死の攻撃で復活するわけが無いのだ。

「あ、あ...はぁ」

 血反吐を腹に収めて全身に力を入れる。目の前には濁流のように押し寄せる大男たちの群れ。再び槍が降り注ぐのも時間の問題だ。対処が遅れれば葵と紫式部が死ぬ。
 わかっている。

─こうなったのは、自分のせいだ。

 祐介はこうなることが予想出来たから、一人で戦うと言った。そんな彼の気遣いすら否定して無関係の人間を巻き込んだ。
 もし、自分とマスターだけだったら。川本相手でも余計な消耗はせずに倒していただろう。この固有結界も連続の宝具使用で逃げるか破壊することだってできた。少なくともこんなに無様な姿は晒さなかった。祐介も、死ななかった。

「すま、ない。マスター」

 ボロボロの体で、自らの主に最大の謝罪をする。従者として、一番やってはならないことをした。
 けど、本気でそれが彼の為になると思っていた。人に馴染むことが出来ながらも何処か壁を作ってその内部に侵入させないように無自覚でしてしまう。化け物になってしまった彼には。彼女との出会いでいい方向に変わってくれると、本気で思っていた。
 彼女は、源葵は。■■■■であり、祐介と同じ悩みを抱えている、もしくは抱えていたと推測できたからだ。
 彼には心から支え合える相棒が、もう一人。必要だと思っていた。しかし彼はおそらく違う。
 彼にとっての相棒は、間違いなく自分なんだ。同じ願いを持ち、同じ怒りを持つ。片方は狩人、片方は獣という名の化け物。そんな凸凹ながらも根元では分かり合えていた。

「アタランテ...!」
「大丈夫ですか!?」

 自分の身体が、魔力消費が多くなっているのを察した葵と紫式部が声をかけて駆け寄ってくる。逃げろと怒鳴ってやりたくなったが自分にはそこまでの元気はない。

「...っ!ああ。まだやれる。汝たちは、早く、逃げろ」

 そう言いながら全力で矢を放つ。全力で放たれた矢の軌跡を見るより先に再び矢を番えて放つ。それを目にも止まらない速度で行う。
 目的はもちろん軍勢から放たれる槍の迎撃だ。

 かち合った矢と槍は火花を立て爆発するような音を立てて葵と紫式部が立っている以外の場所に突き刺さる。
 八回目。もう迎撃した矢の数は数え切れない。
 しかしそれで今度こそ限界に至った。右腕の健が音を立ててちぎれて力なくぶらんと垂れ下がる。これではもう、矢を番えることすら出来ない。

「アタランテ様!」
「私は、もう持たない。しかし汝たちは違う。この固有結界は《《不完全》》だ。走れば、間に合うかもしれん」

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