第三部 1979年
原作キャラクター編
秘密の関係 マライ・ハイゼンベルク
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東ドイツは、1972年に条件付きで、人工妊娠中絶を認める法律を採択した。
この女性の自己決定権を認める法案は、議会でさえも混乱の一つとなった。
衛星政党であるキリスト教民主同盟は、公然と反対票を投じ、SEDと対決する蛮勇をみせたほどである。
結果として妊娠3か月未満――正確には12週未満――においては、条件付きで堕胎が許可されることとなった。
それとて、無制限で堕胎を認めていたソ連、妊娠8か月まで許可していた日本と比して極めて制限的であった。
――あくまで妊娠8か月まで認めていたのは、1955年時点の優生保護法制定当初の厚生次官通達である。
ちなみに、現在の日本では、医学の進歩や、医師や関係者の請願や陳情によって、中絶可能な期間は、21週までに限定された。
今日では、中絶数も毎年減少傾向にある――
ユルゲンの方は、マライの妊娠に全く気が付かなかった。
これは彼の性的経験が不足していたこともあるが、慣れない留学生活でマライが太ってしまったのも影響した。
彼女が、東ドイツ時代に比して5キロ以上太ってしまった故に、その発覚を遅らせることとなったのだ。
有無を言わさぬ感じだったので、マライはユルゲンによって戦術機の前まで引きずり込まれてしまった。
この時、ホスト役のクゼ大尉は、彼女の微妙な変化に感づいていた。
彼は既婚者で、尚且つ、レオンという1歳になったばかりの子息がいたためであった。
自分の妻という実例から、マライが妊婦であることを即座に見抜いた彼は、
「ベルンハルト夫人、貴女、妊娠してませんかね」
と、そっとかしこまったロシア語で耳打ちしたのだ。
それは彼なりの心遣いであった。
東ドイツ人であるマライは、英語が得意でないかもしれない。
だから、コメコン諸国の公用外国語であるロシア語で話しかけたのだ。
「それじゃ、戦術機に乗せるわけにはいかないな……」
さしものユルゲンも、自分のパートナーにロシア語で話しかけているクゼ大尉の事が気になったのであろう。
「どうなさったんですか。クゼ大尉」
――米国英語における大尉は、陸海軍のどちらかによって変化する。
陸軍及び空軍、海兵隊の場合は、Captain。海軍および沿岸警備隊の場合はLieutenant――
「ベルンハルト君、君の奥さんは東独軍の将校だよね」
「はい、国家人民軍中尉になりますが……」
「陸軍中尉か……航空機搭乗員資格は!」
はっきりしないユルゲンの態度に業を煮やしたクゼ大尉は、搭乗資格について問いただした。
操縦士のみが資格を持っていれば、後部座席要員が無資格でも戦闘機に乗
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