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冥王来訪 補遺集
第三部 1979年
原作キャラクター編
秘密の関係 マライ・ハイゼンベルク
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ディーナの話から、マライがユルゲンと男女の過ちを犯し、妊娠したことを悟った。
 ここでマライの計算に違いが生じた。
まず一番最初に相談したアイリスディーナは、東ドイツでは少数派であるが敬虔なキリスト教徒であった。
――かつて東ドイツ地域は、宗教改革の父とされるマルティン・ルターの出身地であり、ドイツの中でも一番信心深い地域だった。 
 東ドイツの独裁党、SEDは、その宗教政策として、ソ連の助言に基づいて信仰だけは認める姿勢を見せた。
だが、就職や進学で差別を公然と受け、年々信者は減る傾向になってった。
 クリスマスやイースターの祭りは残ったが、教会税も廃止されたので、宗派を問わず、教会の多くは廃墟のまま放置されるほどであった――
 アイリスディーナの答えは単純だった。
理由の如何を問わず、堕胎は悪という考えである。
 次に話を聞いたマサキは、やや複雑な考えであった。
やはり彼は、現代の日本人である。
 マライの言うところの婦人の自己決定権という物を理解していた。
その上で、遺伝子工学の専門家として、明らかな胎児の異常や母体の危機ではない限りは、堕胎という物には否定的であった。
 また、不用意な堕胎は、女性の精神に修復不可能なトラウマを残してしまう事を熟知していた。
なので、ユルゲンはおろか、ベアトリクスまで巻き込んで、この不義の子を産ませたいと思っていた。
 それにマサキ個人としては、ユルゲンとマライの子が生まれれば、ユルゲンとベアトリクスの間に何らかの問題が起きて、ベアトリクスの気持ちがユルゲンから離れるかもしれないという打算があった。
 上手くいきさえすれば、ユルゲンに絶望したベアトリクスを慰められるかもしれない……
そのような卑しい考えさえも、彼の脳裏に浮かんだり消えたりした。
 そして、ここで半端に堕胎を認める立場をとれば、どうなるか。
仮に、これから先、アイリスディーナやほかの女と結ばれた際に、出来た子供を失う恐れも出てくる。
 普段から堕胎に対して、否定的な立場を取っていれば、自分の子供も守れるはずだ。
そんなマサキの深謀遠慮によって、マライは結果的に、堕胎するチャンスを失ってしまった。





「ねえ、マライ、君も俺と一緒にF‐14に乗ろうよ!」
 ユルゲンの妻役として来ていたマライ・ハイゼンベルクは、その提案に思わず度肝を抜かれた。
マサキに自身の懐妊が露見して以降、ユルゲンには一切そのことを伝えないで来てしまった。
 正確に言えば、ユルゲンとの関係の変化や、祖国に残る両親兄弟への迷惑。
アイリスディーナへの遠慮や、ベアトリクスからの報復を恐れて、今までだらだらと来てしまったのだ。
そうしている内に、既に妊娠5か月を超えてしまい、生む・生まないの選択をする時期を超えていたのだ。
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