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同盟上院議事録〜あるいは自由惑星同盟構成国民達の戦争〜
自由惑星同盟の最も長い3カ月
ロボス元帥は機動を試みる
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てばいいが負ければ――
 ロボスの思索をノックの音が遮った。
 セキュリティを解除すると、司令長官に同行するやや疲労の色が濃い青年准将が緊張した面持ちで入室した。
「司令長官閣下、アルレスハイム“統領”閣下です」
 ロボスは目を伏せた。こんな目的での面会はまっぴらであった。下手を打てば亡命者からの支持を失ってしまう。畜生、本部長から先のキャリアを考えるなら同盟弁務官か代議士を一期務めて適当な天下りで4年ほどは悠々自適に過ごせるはずなのに。あの阿呆は何を考えて――
「あぁ、その陛下とお呼びしたほうが‥‥?」
 司令長官の沈黙を誤解したフォーク准将は神経質そうに軍礼服の埃を払いながら訪ねた。
「統領閣下でいい。私がどう呼ぶかは気にするな。これでもこの星のゆで卵を貪ってこの体を育てた時期も長くてな」
 声をあげて笑うがフォークは頬を攣らせただけだった。
「はっ」
 相も変わらずやや青ざめた顔のまま准将はロボスの後ろに控えた。
 実際のところこの青年を便利使いしすぎたかもしれない、とロボスは少しばかり反省している。彼の父はバーラト工科大学出身で技術官僚として結構な地位にあり、政界へのパイプも太い。シトレに対抗するため、中央への影響力が強い彼には、大いに働いてもらっている。
「お久しぶりです、元帥。最後にお会いしたのは第4次ティアマト会戦の祝勝会以来でしたか」

「マリアンヌ…閣下。わざわざお招きいただきありがとうございます」

「フフフ、時間の貴重さを最も知っているのは作戦を考える軍人でしょう?特に勤勉な軍人であればなおさら」
 ですから手早く”本題”をほのめかしに来たの、司令長官殿。
 マリアンヌは悪戯っぽく唇を釣り上げた。
「貴方の率いる同盟宇宙軍の偉業に対しお祝い申し上げます。貴官は長きに渡り侵略の業火から自由惑星同盟の市民達を守ってきました。お父上のように。アルレスハイム星域会戦をアルレスハイムは忘れていません。この交戦星域を守ってきた事実を、ね」

「我々はなすべきことが沢山あります。優れた将帥は適切な選択肢を選ぶと信じています」

 ラザール・ロボス元帥は乾いた唇を舐めた。眼前のインテリゲチャの言葉の意味を推し測る。
「同盟軍は常に市民の安全を保障するためにあります、陛下」
 帝冠の守護者は一瞬だけ、知的好奇心に満ちた光を瞳に走らせた。
「期待しています、元帥」
「私もこのパーティーのゆで卵には期待していますとも」
 ゆで卵はアルレスハイムのソウルフードだ。亡命者の実質的な収容所から革命と戦災復興を経験した歴史――貴族社会・侵略者へのレジスタンス・革命・そして廃墟からの再起、その全ての象徴である。
「あら、元帥がいらっしゃると聞いてシャシリクの料理人も張り切っていらしたわよ」
 笑い声
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