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『外伝:紫』崩壊した世界で紫式部が来てくれたけどなにか違う
【視点転換】帰還の為の免罪符-陸-
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乾燥している。しかしその時の自分はそんなことに全く気が付かなった。それよりも印象的なものがついていたのだ。

「なんだよ...これ」

 自分の腕は丸太のように太く、血管が浮きでている。爪はまるで猫の爪のように長く引っかかる、鋭い爪になっている。足も同様、長く鋭い爪がついており、足には黒と紫の毛がまるで毛皮のように生えている。
 そして口を開いた瞬間何かを口にしていたことに気付く。口の中に何かが入っているのだ。何か動物の肉。妙な臭いに筋が強い、美味いとはとても言えない。

「おえっ...えっ...え」

 急に気持ち悪くなり、その場でその肉を吐き出す。それと共に吐き出される血。口の中で切った、という訳では無い。その時に理解した。この肉は牛でも鳥でも豚でもない。羊や馬のようなジビエでもない。人だ。人の肉だ。そして、自分は寝転んでいる間にここにいた人たちを全員、殺して食べたのだ。
 
「うあ...あああっ...おえええっ...なんだよ...なんなんだよ!これ!」

 意味がわからない。ずっと眠っていたフリだったので目はつぶっていたが記憶はある。その間、誰かを殺して食べることはおろか、立ち上がることすらしていない。

「おえっ、おえぇぇええ」

 吐き出す。自分が食べた肉を全て吐き出す。これはダメだ。これは口の中に入れてはいけないものだ。

 しかし口の中から出てきたもの以外は胃液のような液体しか出てこなかった。口の中に入っていただけしか無かった、なんてことは無い。もう消化したのか。人を殺して食べた。まるで怪物のように。
 自分が怪物になっている。そう理解するまでに時間はかからなかった。人の言葉なんて聞こえない、ただ人を食べ物のように見下げて食らいつく。そんな化け物に自分はなっている。恐らくここにいた人たちも同じように怯えていたのだろう。そしてそれを、自分は見ようともせずに殺した。鏡を見たくない。そんなものを見せられたら今の自分の姿に絶望して自分で命を絶ってしまうだろう。

「おえっ...気持ち悪...もう嫌だ...」

 何も出てこない。もう自分は化け物なんだ。言い訳なんて出来ない。それより先に自分の体が化け物だと語っている。

「実験成功だ!やったぞ!」

 後ろから急に大きな声が聞こえたかと思ったらそこには1人の男がいた。少し小太りで薄い髪を持った40代か50代程の男性だ。彼はとても楽しそうにこちらを見ている。顔はとても笑っている。生き残りを見つけた、なんて意味じゃないことは理解していた。

「くっ!来るな!来ないでくれ!」

 しかし今の自分は化け物だ。彼が近づけば彼を殺してしまうかもしれない。そんな脅えから建物の隅の方まで逃げる。
 だと言うのに男はとても楽しそうにゆっくりと歩いてくる。

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