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『外伝:紫』崩壊した世界で紫式部が来てくれたけどなにか違う
【視点転換】帰還の為の免罪符-伍-
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功績を挙げればキリがないとすら言われる物腰柔らかな人物だったらしい。人類最強の兄貴分にして真木や他の人間を絶望からすくい上げ、戦う足を作った。
 ただ一つ、彼に難点があるとすれば、その魔術を教えた協力者が彼とは真逆、世界の敵とすら言われる人物であるということだけ。

「魔術師?この世界がこうなった直後に?」

 葵が出したのは純粋な疑問だ。
 世界が崩壊し、化け物(災害)サーヴァント(災害を振り払うもの)が同時に世界に降り立った瞬間、世界が切り替わったことにより、多くの人間に魔術回路がつけられるようになり、マスターの権利、学習能力のせいで低レベルなものとはいえ、魔術が使えるようになった。
 逆に言えばこの世界が崩壊するまで、魔術は理論として成り立っていなかった。ただのオカルトのひとつとしてあっただけ。それを使えたなんてそれこそ本当に気の狂ったカルト集団だと思うだろう。しかしそんなことをわざわざ口に出して言うとも思っていない。
 
「いや、どうやらマスターはこの世界がこうなる前からその男は魔術が使えていたと言っていた。少し信じるのは厳しいかもしれんが、それでもしないと話が釣り合わない」

 そして現実は非情だ。この場合の魔術師は世界が崩壊する以前から他の魔術師と同じように、否。それとは文字通り次元の違う魔術を使っていた。
 その事実から恐らくその魔術師の名前に気づいたのだろう。紫式部の顔色が一気に白く、青くなる。

「...まさか」

 大きく開かれた瞳がこちらをじっと見ている。その瞳は思い違いであってくれ、と言っているようにも見える。しかし残念ながら彼女の思う人物と正解の人物は同一人物だ。

「香子?」

 対して、その男の存在を知らない、紫式部から聞いていないのだろう。葵は様子の変わった紫式部を見てこちらと見比べるように首を動かす。
 紫式部がマスターに伝えないのは別に不思議なことではない。彼女なりに余計なお世話情報を与えるべきではないと思ったのもあるだろう。それに何より、下手に首を突っ込むとこの世界の元凶に殺される危険がある。守ろうとするなら下手に言うべきではない。
 
「...いえ、問題ありません」
「紫式部がこうなるのも無理はない。その男は」

 心配するマスターを落ち着かせるように紫式部がゆっくりとした口調で言う。予想通りの反応だ。自分も記録という形で見た時は彼女と同じような顔をした。
 一度軽く息を吐いて体を落ち着かせる。葵も察しがいいのか落ち着いてこちらを見ている。
 思い出すのはこの世界に召喚された時に植え付けられた記録。現世に召喚されても不自由がないように聖杯などから与えられる基本的な知識。その中にそれはあった。

 ある者は言った。
─彼は人の愛を拒むもの。神の愛を拒むも
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