40:届かなかった手
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ズラリと隙間無く取り囲み、可能な限り狭く閉じ込めた。
……このゲーム、この世界ではいわゆる《ボックス》と呼ばれる、相手プレイヤーの移動の自由を奪う、立派なノンマナー行為である。
「な、なにっ? なんのつもりっ……!?」
思わず背の斧の柄に右手をやりながらボクは身近の彼らを見上げ…………そして背筋が凍った。
……みんな、なんて顔をしているのだろうか。
みながみな、今のボクの語彙ではなんとも言えぬ……冷たすぎる無表情だった。
例えるならば、そう……
――これから屠殺する家畜を見るかのような、目。視線。気配。
それらは、単に冷たいだけではない。これから得られる肉のご馳走を前に、熱狂的な興奮を抑えている息遣いすら感じる、『冷酷』という二文字だけでは説明のつかない、そんな悪意ある顔が……何十人分も立ち並んでいる。
……それが、人のする顔なのだろうか。
……そしてボクは恐ろしいことに気づいた。
彼らは……ボクを見ていなかった。
その全ての視線は、ボクの背後の足元……ミストユニコーン、ルビーにのみ注がれていた。
凄まじいまでの嫌な予感が全身に駆け巡った。
同時に、背の巨斧を一気に引き抜いた。
「これは一体なんのマネ――ぃ痛っ!?」
しかし、それは遅すぎた。
再びボクの言葉が終わる前に、真横の壁の一部が一斉に動き出し……不意を突かれたボクはその壁の波に強く弾かれ、前方にズザァッと倒された。手からガランガラァン、と派手な音を立てて斧が地に転がる。
それと同時に背から消える――温かな気配。
「ル、ルビーッ!?」
倒れる体の土埃に塗れながら急いで振り返ると……ボクとルビーを隔絶する形で、さらなる人の壁が出来ていた。その並ぶ足の隙間から、かろうじで純白の体が垣間見れた。
「ルビーッ!! ……うぐっ、どいてっ! どいてよっ!?」
ボクはすぐさま起き上がり、人の壁の隙間に体を突っ込んで突き破ろうとする。しかし……彼らは地に足をしっかりと踏ませ、かつ互いの腕を組ませる形で強く結束していて、ボクの小さな体はそれ以上、一センチたりともその体を押しのけられない。
プレイヤーは座標システムによって補足・移動・固定されている。ノンマナー・ハラスメント行為防止の為、こうしてしっかりとした体勢で立たれては、同じプレイヤーであるボクは、彼らの座標を動かして押しのけることが出来なかったのだ。
ルビーは大勢に取り囲まれ、いくつもの手でその場に押し倒されていた。そしてその中の一人がストレージから《担架》アイテムを取り出し、無理やりその上にユニコーンを運ぶ。
ルビーも大きく暴れるも、この人数相手ではまるで効果が無かった。
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