第3部
サマンオサ
小さな淡い想い(???視点)
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??思い出すのはいつも、あのときの君の笑顔。一緒に修行を抜け出して、高台の下に生えているコスモス畑まで走る。無事に成功したとき、君は心配そうな僕に対して、とびきりの笑顔を僕に返してくれた。
もう二度と会えない君のことを寂しいと思いながらも、僕はその笑顔をずっと忘れないでいた。
会えないのならいっそ思い出として幸せを味わわせて欲しい。なぜなら、今の僕にはそれしか幸せを感じることが出来ないのだから。
「??ク!! ルーク!!」
聞き慣れた声がして、僕はゆっくりと目を覚ました。
どうやら昔の夢を見ていたらしい。それにしても随分と懐かしい記憶だ。
僕はもう一度目を瞑り、夢の続きを見ようとした。けれど覚醒した頭はこれ以上鮮明な夢を映し出してくれない。時間がたつにつれ、どんどん夢の記憶が薄れていく。
あのときの彼女の声が、笑顔が、年を重ねるごとに朧気になっていく。やがてすべて忘れてしまう頃には、僕は今よりも幸せになっているのだろうか。
などと物思いに耽っていると、下の階から足音が近づいてきた。まずい、起こされてから一度も返事をしていないことにようやく気づき、慌ててベッドから跳ね起きた。
「ルーク、いつになったら起きるの? 早く起きないと、仕事に遅れるわよ」
いつの間にドアを開けたのか、部屋の向こうには母親が心配そうな顔で立っていた。
「起きてるよ、母さん」
そう伝えると、母は納得したのかすぐにまた下に降りていった。僕はすぐに服を着替え、仕事に行く準備をする。
下に降りてキッチンに行くと、ダイニングテーブルに僕の分のご飯が用意してあった。母の分がないのを見ると、きっと今朝は食べないつもりだ。
「母さん、たまには朝ご飯くらい食べないと、病気になっちゃうよ」
ふとリビングの方に視線を向けると、母はソファーで横になっていた。けして具合が悪いわけではない。この光景はいつものことだ。
「いいの。家にいるしかない役立たずの私よりも、働き盛りのあなたに食べてもらいたいの」
明らかに自分を卑下した言い分だが、この会話も日常茶飯事なのでお決まりの言葉を返しておく。
「いつも言ってるだろ。母さんはあの英雄サイモンを支えてきた人なんだから、もっと自信を持ちなって」
そこまで言うと、母はおもむろにソファーから起き上がり、僕の方を恨みがましい目で睨み付けた。
「あの人のことは口に出さないでって言ってるでしょ!!」
そう吐き捨てると、やや乱暴にドスン、とソファーに仰向けに身体を預けた。それきり彼女はその場を離れることはせず、僕が仕事場に出掛ける時間になる頃には、スヤスヤと寝息を立てていた。
(また遅くまで内職の仕事してたな……)
僕はため息をつくと、寝ている母の身体に薄布をかけて、家を出た。防犯のため、家の鍵は二重ロ
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