第99話 格の違い
[7/11]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
キシン麻薬に裏打ちされた狂信的な宗教に付け入るスキを与えない。
もちろん自動攻撃衛星の消耗戦なんて面倒なことをせず、まともにイゼルローン要塞を陥落させてから同じように帝国側と緊張感ある共存を作り上げることは、出来ないわけではないだろう。だが今度は、同盟国内に帝国領侵攻のストップをかける労力がとてつもなく大きくなってしまう。
帝国大侵攻を招いたのは原作時における政治状況によるものだけではない。あまりにも華麗なイゼルローン奪取の興奮によって、それまでに積み重ねられた損害に対する回顧より、純粋に帝国を軍事的にも政治的にも侮る楽観が上回ってしまった。逆に積み重ねられた恨み辛みをこの機会に晴らしてやろうという復讐心に対するハードルが大幅に低下した。
それが第五次・第六次イゼルローン攻略戦とアスターテ星域会戦によって、大幅な軍事的かつ国家経済的なリソースの低下が発生した後で起こったものだから、もう目も当てられない。イゼルローン要塞陥落のタイミングは、同盟にとって最悪であった。
無人タクシーの中で「私も甘かったよ」なんてシトレが寝ぼけたことを言っているのは、正直可笑しい話だ。統合作戦本部がイゼルローン攻略後のことを全く考えていないとは思えない。個人的な好き嫌いで政権中枢対するレクチャーを怠っていたとは、今のシトレの辣腕ぶりを見ている限り考えづらい。
仮にシトレが大々的に攻守転換ドクトリンなりを、職を賭して世間に発表したとしても帝国領侵攻は恐らくは止まらなかった。シトレとロボスの出世レースの最後の攻防もあったし、トリューニヒト自身が失敗の先の自己権力の拡大を目論んでシトレと手を握ることはないだろう。
未来はどうなるか分からない。だが何もしなければシトレによる第五次、ロボスによる第六次のイゼルローン攻略が行われる。怪物の威を借りれば金は猛烈に失うが、人的損害を減らすことは可能なはずだ。ならばフォークと同じようなことをする行動に対する生理的嫌悪感に蓋をするくらいなんとでもない。怪物が悪魔になって手が付けられなくなる可能性はあるが……その時は俺自身が、奴が人間であると証明するしかない。
目の前のトリューニヒトは俺の答え以降一切口を開くことなく、あの蛙のような目で俺を見ている。年齢は三五歳か三六歳のはずなのに、まるで人生に諦観したような老人のような瞳の暗さだ。ただ左手の人差し指だけが規則正しくテーブルを音もたてずに叩いている。
恐らく頭の中で計算しているのだろう。俺の提案についてと俺自身の処遇についてと、自身にとって有害か無害かについて。今の自分の立場と、諸方面との関係を含めて見極めようというところか。
たっぷり五分。人差し指の音なきノックが唐突に終わると、トリューニヒトの瞳には極彩色の輝きが戻っていた。
「
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ