第99話 格の違い
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い時代は別として、幾つかの奇跡のような例外を除けば現実が証明しています」
チキンフライでベタベタになった手を布巾で拭い、ついでに紙ナプキンで口を拭う。誰かが『脂で口が滑らかになったと見える』なんて言ってたような気がするが、おそらくトリューニヒトも俺を見てそう思っているだろう。
「軍は命令と服従で成り立つ組織です。それは行政府も変わりません。ですが官僚はペンで戦いますが、軍人は暴力で戦います。特にこのような戦時下にある場合、国防を理由として市民の私権制限を行うことに対する心の敷居はかなり低くなりがちです」
実際のところ軍事独裁政権でないにも関わらず、口笛の下手なマスクマンを使って、平然と対立組織に対して私刑を行っていたのは目の前の男だ。ああいう私兵組織を抱えていた基本的な理由は、実力組織である軍の自分に対する暴力に対応する為だろう。
「本来民主主義国家において勝利条件を設定するのは、選挙によって市民から負託を受けた政治家の仕事です。軍人はその勝利条件を達成する上で助言を行い、軍事上とるべき必要な戦略を構築し、戦術を持って目標を達成するのが仕事です。政治家の仕事まで軍人がやらねばならないとしたら、政治家は無為徒食の輩として扱われます」
軍事独裁政権下で民主政治家が生き延びるには、市民からの負託を政権が預かったと正当化するお札としての役割ぐらいだ。
「そして余裕のない人間は、特に必要のない不自由な『物資』にかける金があるなら、別の物に金を使います」
言い終えた俺が飲むスムージーの喉を通る音すら聞こえるほどに静まり返るトリューニヒトの応接室。いつの間にかトリューニヒトの顔には余裕はなくなり、口以上に物を言う魅了の魔力を持つ目は薄い瞼で閉じられている。テーブルの上で組まれた両手は小さく前後に揺れていて、その振動が彼のスムージーの水面を規則正しく揺らしている。
危険な発言を繰り返す目の前の士官をどう処分しようか、そう考えているのか。だが次にトリューニヒトの目が見開いた時に口から出た言葉は意外なものだった。
「イゼルローン要塞を攻略できれば、銀河帝国との講和は可能と、君は考えるかね?」
現時点でも主戦派の領袖と言われる男から出る言葉ではない。だが現時点でトリューニヒトが帝国との講和を考えていたかどうかまでは原作には記されていない。もちろん、単に俺がアイランズに話した講和条件を思い出して、質問してきているだけに過ぎないかもしれない。
ただこういう話ができるという『状況証拠らしきもの』はある。
獅子帝が死の淵にある際、ユリアンが自身と同様の銀河帝国に立憲体制を構築するという構想を、トリューニヒトが描いていたというドミニクの証言。また同盟降伏後、わが身可愛さから帝国の臣下になることを申し出ている。
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