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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第99話 格の違い
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 宇宙暦七九〇年 八月末 バーラト星系 惑星ハイネセン

 結局レンタル衣装を返却しに行ったアントニナに、同期宛のお土産を散々買わされ、老後の貯えとか考えたくないレベルにまで預金高が減りつつあるが、そんなことを考える余裕もないほどまでに俺は仕事に追われていた。

 予算審議は最終段階を迎え、与野党の各派閥領袖で国防予算に関わらない評議会議員へのレクも始まり、首都在住の軍人でありながらほとんど議員会館に詰めているような日が続く。チェン補佐官のスケジュールであれば本来八時出勤一九時退勤になるはずなのだが、ドタキャンに即アポにとだいたいは議員側の都合で狂わされ、日付を跨ぐ前に官舎に帰ることはない。
一度、宿舎の前に止まったままの無人タクシーで前後不覚で寝てしまい、故障を疑った公共交通システム公社のメンテナンス要員と事件の可能性を考えた交通警察によって夜明け前に叩き起こされるという醜態も晒してしまった。

「君には色々と慣れない仕事で苦労をかけて、済まないと思っているんだ」

 明後日開かれるの評議会議員総会での予算承認にどうにか目途が立ち、あとは政治家達がちゃんと賛成票のボタンを押してくれればいいところまで来た日の深夜。無人タクシーの呼び出しをかける寸前に、俺がレイバーン議員会館五四〇九号室に呼び出され、我が世の春のようなキラキラした笑顔をした怪物に迎えられた。

「国防予算は、大きな波乱に見舞われることがなく議会を通過する見通しがたった。勿論全ての要求が通ったわけではないが、軍令・実働部隊も満足してくれる額で落ち着いた。ここ数年来では一番スムーズな決着だった。君のお陰だ。本当に感謝しているよ」

 国旗と、選挙区のコミュニティ旗と、軍旗が並ぶさほど大きくもない評議会議員オフィスの中の応接室。染みも皺もないピッとしたテーブルクロスの上に並べられた、チキンフライと鶏チャーシューと、リンゴとショウガのホットスムージー。それぞれ二人前の、合わせて四人前。いずれの容器にも議員食堂のマークが入っている。

「先生には余計なお気を使わせてしまったようで、どうにも申し訳ございません」

 俺はとっとと帰って寝たいんだよ、と言ったつもりだが恐らく通じていない。通じていてもこの怪物は表情筋一つ動かすことなくスルーするだろうとは思うが、出されている料理からトリューニヒトが、俺にいくらかは配慮していることが伺える。

「なに。このくらいのこと、気にすることはないよ。君の労に比べれば、ささやかなものさ」

 せっかく用意したんだから食べて(ついでに話もして)くれるよね、ということか。元から会食を断れるような相手ではないし、直上ではないが一応補佐すべき相手(国防委員会参事)であることは間違いない。座りたまえと言わんばかりに差し出された手に従い
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