第二章
[8]前話
一口齧った、すると彼は眉を顰めさせて言った。
「違うな」
「違う?」
「これはナポリのものじゃない」
「えっ、そうなんですか」
「味が違う、本場のものが入ったらまた来るよ」
こう言ってだった。
ロッシーニは店を後にした、ここで店長が店に出て来て今まさに店を後にする彼の後ろ姿を見て仰天して店員に言った。
「君困るよあの人はロッシーニさんだよ」
「誰ですか、その人」
「有名な音楽家だよ」
店長はありのままに話した。
「多くの名作を生みだした」
「僕音楽のことは知らなくて」
初老の白髪のやや太った店長に話した。
「そうした人でした」
「一体何があったんだ」
「実は」
店員は店長に彼とのやり取りを話した、店長は最後まで聞いて言った。
「私も本場のものと思っていたが」
「違ったんですね」
「それなら本当にだ」
「ナポリからですね」
「輸入しよう、しかし今度から気を付けてくれよ」
「失礼のない様にですか」
「本当に凄い音楽家さんだからね」
こう言うのだった。
「くれぐれもね」
「凄い音楽家は兎も角凄い人ですね」
店員は店長に考える顔で答えた。
「本当に」
「音楽家は兎も角?」
「ええ、一口齧っただけでナポリのじゃないってわかったんですから」
だからだというのだ。
「あの人は凄い人だよ」
「そう言われるとな、美食家と聞いているが」
店長も言われて頷いた。
「かなりだな」
「そうですよね」
「ああ、凄い人だよ」
店長もこう言った、そして店はすぐに本物のナポリ産のスパゲティを入れた。ロッシーニは話を聞いてすぐにまた齧って確かめてだ。
買って家で作らせて食べたが。
「これは間違いない」
「ナポリ産かい?」
「そうだよ」
共に食べている店を紹介した友人に答えた。
「これこそが」
「そうなんだな、僕にはな」
「わからないかい?」
「とてもね」
「私にはわかるよ、味がね」
「やっぱり違うんだな」
「そうだよ、いややっぱりナポリ産は違う」
ロッシーニはスパゲティを食べつつ言った。
「格別だよ」
「他のと比べてかい」
「そうだよ、これが一番だよ」
食べつつ言うのだった、その顔は非常に満足しているものだった。彼が言うナポリ産のスパゲティは齧るだけでわかりかつ極めて美味いものだった。
一口齧って 完
2023・10・14
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