第一章
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前近代的非科学的野球
テレビを点けるとシャモジの様な顔の年寄りが喚いていた。
「阪神の牙城を崩すのは巨人だけだ!」
「お父ちゃん、こいつ何だよ」
小学生で野球をやっている権藤水昇はその年寄りを見て父の大成に問うた、まだあどけない顔であるが背は一六〇あり小学生としてはかなり大きい。
「巨人しか言ってないぞ」
「ああ、そいつか」
父は息子に言われてスマートフォンのゲームからテレビに目をやってそのうえで応えた、仕事はバスの運転手で背は一八〇ある。大きな丸い目と太い眉に分厚い唇をそのまま息子に受け継がせている。髪の毛は前からつむじまでなくなっている。
「そいつは昔からだよ」
「巨人しか言ってないんだな」
「元々巨人のエースでな」
そうであってというのだ。
「それでコーチの時もな」
「巨人だったんだな」
「長い間やってたけどな」
コーチをというのだ。
「巨人でしかな」
「コーチやってなかったんだな」
「それで監督もな」
「巨人だったんだな」
「もう巨人しかな」
それこそというのだ。
「いなかったんだよ」
「だから巨人しか言わないんだな」
「ああ、それでだ」
父は息子に言った。
「こいつの言うこと聞けよ」
「俺巨人嫌いだよ」
息子は父に怒った顔で返した。
「楽天ファンでな」
「ここ仙台だからな」
「父ちゃんもだろ」
「父ちゃんは生まれ横浜だからな」
「横浜かよ」
「セリーグはな、けれどパリーグはな」
こちらはというのだ。
「やっぱりな」
「楽天だよな」
「父ちゃんも嫌いだよ」
「母ちゃんもだよな」
「うちは皆巨人嫌いだろ」
「それで何でそんなこと言うんだよ」
「世界狭い奴の言葉聞くのもな」
そうすることもというのだ。
「勉強のうちなんだよ」
「そうなのかな」
「頭が悪くてな」
乳は息子にさらに言った。
「昔のことしか言わないしかも嫌われてるな」
「こいつそうなんだな」
「そうだよ、そんな奴の言うことを聞くこともな」
「勉強なのかよ」
「いい人の話を聞いてな」
そうしてというのだ。
「碌でもない奴の言うことを聞くのもな」
「いいんだな」
「いい人はお手本にしてな」
「悪い奴の言うことはか」
「こうはなるまいってな」
その様にというのだ。
「反面教師にするものだよ」
「だから聞くのかよ」
「そうだ、それでこいつはな」
テレビでまだ巨人のことしか言わない年寄りを見つつ言うのだった、老人ではなくそうである輩を。
「はっきりと言うぞ、碌でもない奴だ」
「そうなんだな」
「偉そうだろ」
「ああ」
水昇もその通りと答えた。
「エースでコーチで監督だったからか」
「球界の盟主のね」
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