第二部 黒いガンダム
第五章 フランクリン・ビダン
第四節 闖入 第一話(通算96話)
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「グリプスからの援軍要請だと?」
チャン・ヤーは艦橋の艦長席にどっかりと腰を落ち着けて、剣呑な眼をオペレーター席から見上げる通信長に向けた。
「はっ、ダグラス中将の正式な指令書もあります」
「きな臭いねぇ……」
ふわりと浮いた、個性的というより顔立ちは整っているが、男を圧倒する戦闘的な強さを滲ませた女がそこにいた。相対するものにその肢体を想像させる肉感的なプロポーションをしている。
女の名はライラ・ミラ・ライラ。〈ルナツー〉きっての女傑で、指折りのエースパイロットであるが、敵を選り好みすることで有名だった。弱い敵と見れば、部下に任せてしまい出撃しないなどの行為があるため、彼女の部隊は〈ルナツー〉の正規軍にあって不正規扱いされていた。その割に脱落者が少ないのは、ライラの人徳かもしれない。
「嬉しそうだな?」
「戦争好きみたいに言うんじゃないさ」
ライラが気色ばむ。
眉間をひそませた表情に色気がある。妖婉さというか、戦う男を奮い起たせるようなものがあった。威圧感がありながら、包容力を感じさせる母性に似たものを、その内側に感じさせるからであろうか。
「好きな癖に」
「アタシはね、戦うのが好きなだけさ。戦争なんてバカげてるからこそ、遊びで戦ってるんじゃないか」
力みのなさに本音が垣間見える。ライラは何度言わせるのかという表情でチャン・ヤーを見やった。チャン・ヤーはチャン・ヤーでまたかという表情だ。二人の間に無言の会話が続く。口に出さずとも伝わるのは付き合いが長いからだろうか。一年戦争の頃から船乗りとパイロットと部署は違うが、同じ艦に乗り合わせて実に八年近い。
ライラのパイロットスーツは、艶やかな紫である。連邦では原則としてパーソナルカラーは認められておらず、これは部隊カラーだった。ライラの率いる部隊は紫と赤紫に塗り分けられた《ジム・カスタム》に搭乗している。部隊章は《薔薇と交叉した剣》だ。元々はライラのパーソナルエンブレムであったが、いつの間にか部隊章になっていた。
ライラの物腰から宇宙空間に馴れ親しんでいるのが判る。恐らく生粋のスペースノイドなのだろう。軽い足の動きだけで体をコントロールするのは、アースノイドにはできない芸当だ。
「で?」
「あん?」
ライラが艦長席の横に降り立った。チャン・ヤーはとぼけてみせる。ライラの質問は解っていたが、敵についての詳しいことが解っていなかったことと、得られた情報には箝口令が敷かれていた。が、そんなことを意に介すライラではない。
「どんな相手なのさ?」
獲物を見極める豹の眼に、愉しそうな表情を覗かせる。遊べる相手なんだろう?とでも言いたげな顔でだった。ツルリと顔を撫でて、ライラ相手では仕方ないと諦めた。他言無用とばか
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