第百二十三話 足が速いとその七
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「言ってるよ」
「それは何よりね」
「化学って面白いしな」
こうもだ、鳴海は笑って言った。
「工業科ってそういうこと色々やるけどな」
「作業多いのよね」
「それで授業でな」
「化学もやってて」
「それでな」
そこでというのだ。
「俺も好きなんだよ」
「化学の実験が」
「だから文化祭の化学部はな」
「期待してるのね」
「それで化学部の奴に楽しみにしておいてくれってな」
「言われてるのね」
「ああ、かな恵も来るか?文化祭で」
体育祭の後のこの催しでというのだ。
「化学部の方にもな」
「もう一通り回るつもりよ」
これがかな恵の返事だった。
「それならね」
「化学部もだよな」
「うちの学園文科系の部活も充実してるし」
だからだというのだ。
「楽しみよ」
「じゃあ化学部も行こうな」
「そうしましょう」
「ああ、是非な」
電車の中で二人並んで座って話した、そしてだった。
二人のそれぞれの家がある団地に入るとだ、かな恵は暗がりの中にあるものを見て鳴海に目を瞬かせてから言った。
「鳥じゃないわよね」
「夜だろ」
鳴海はだからだと応えた。
「だったら鳥はな」
「あまりいないわね」
「梟とかはいてもな」
夜行性の種類の鳥はというのだ。
「けれどな」
「普通はないわね」
「蝙蝠だろ」
鳴海もその飛ぶものを見て言った。
「そうだろ」
「蝙蝠ね」
「結構あちこちにいるからな」
この飛ぶ生きものはというのだ。
「だからな」
「この団地の方にも来てるの」
「ああ、けれどな」
鳴海はさらに話した。
「怖くないだろ」
「別に襲われないっていうか」
かな恵は何でもないといった顔で答えた。
「蝙蝠って蚊とか食べてくれるし」
「有り難いよな」
「ええ、日本にいる蝙蝠はね」
「怖いのはチスイコウモリだよ」
この蝙蝠だというのだ。
「中南米にいるな」
「血を吸うこと自体はまだよくても」
「狂犬病があるからな」
この病気を感染させるからだというのだ。
「物凄く怖いよ」
「狂犬病って助からないのよね」
この病気についてはだ、かな恵は顔を青くさせて話した。
「ほぼね」
「確実に死ぬと思っていいんだよな」
「日本ではずっとないけれど」
今のところだ、昭和三十二年から報告されていない。
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