第二部 1978年
原作キャラクター編
何れ菖蒲か杜若 アイリスディーナとベアトリクス 美人義姉妹の道
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「でも、今すぐにじゃないわ。
この人がアメリカに行ってる間は収入がないし、あんまり早くやめると軍籍も残らないし……」
「でもやめるんだ……」
ユルゲンはギリシア彫刻の様に整った顔を赤く紅潮させ、アイリスディーナのほうに近づく。
青く透き通った瞳で、妹アイリスディーナの近寄りがたく気高い美貌を眺めやる。
「アイリス、お前も結婚を理由に辞めても構わない」
ベアトリクスも、妖しい笑みを浮かべながら、脇から口をはさむ。
「相手は、別に木原じゃなくても、いいのよ。
父や議長に言えば、いい男性を紹介してくれるわ」
たちまち、アイリスディーナの表情が上気してくる。
この穢れを知らぬ理知的で、どことなく高貴な香りを漂わせる妹。
彼女を、軍隊という男社会の中に放り込む事を、ユルゲンは今更ながら悩んでいたのだ。
「女が剣をもって、その刃を血で濡らすことはない……。
それに、BETAは今、一番近くて月面だ。
ゼオライマーという強い味方の存在で、人類には、十分すぎる準備期間ができたという事さ」
安心させる様なユルゲンの言葉とは対照的に、アイリスディーナの表情が、にわかに曇る。
「兄さんも、木原さんを利用するということですか……
あの方は、見返りを求めずに戦ってくれているのかもしれないのにですよ」
「アイリス、いいか。よく聞いてくれ。
俺はこの戦争になった時から、お前たちの為ならば、それこそ悪魔に魂を売って、何でも使う気でいた」
「本気で言ってるのですか」
「もちろんさ」
アイリスディーナは、答える代わりに深々と息を吸い込んだ。
込み上げてくる怒りを、何とか抑え付けているようだった。
「時には、正攻法じゃない方法……。
シュタージに接近して、裏口からこの国の制度を変える。
なんって事も、夢想していた……
でも、そんな考えも、現実の前では愚かだった」
アイリスは兄の言葉をあやしんだ。愚かだったとは。
「どういうことですか」
彼女のそうした様子が、ふとベアトリクスを不安にさせてきたのかもしれなかった。
急に、つきつめたその瞳に涙さえ差しぐんで。
「木原マサキがくれた資料の中にね、こんなことが書いてあったのよ。
シュタージの将軍、エーリッヒ・シュミットは、KGBのグレゴリー・アンドロポフ少尉だってね」
と、彼女は思いきったようにあふれる涙と共に言った。
「シュタージの高官が、KGBの正規職員だったのですか!」
アイリスディーナは、世にそんな恐ろしいことがと、いまだ信じられぬ様子だった。
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