第二部 1978年
原作キャラクター編
何れ菖蒲か杜若 アイリスディーナとベアトリクス 美人義姉妹の道
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経験していた。
社会主義での平等を喧伝しながら、男女の性差や文化的役割は、その崩壊まで変えられなかった。
東独の社会主義政権は、人材の有効活用という点から婦人の労働参加を積極的に進めたが、当の婦人たちが望まなかった。
そして、彼女の夫や子供も、そういう事を求めていなかった。
無論、1960年代の段階で既婚女性の6割が就業していたが、それは西ドイツと違い、男女の給与水準の差が少なかったためである。
ある程度豊かな人並みの暮らしをするためには、婦人は家庭から出て働かざるを得なかったのだ。
さて、同じころのパンコウ区にあるベルンハルト亭。
「ただいま、もどりました」
外出先からアイリスディーナが帰ってくると、屋敷の居間から声がする。
なにやら、ユルゲンとベアトリクスが語り合っている最中であった。
椅子に座ったユルゲンはワイシャツにサスペンダー、グレーの乗馬ズボンに黒革の長靴。
仕事から帰ってきたばかりだったのだろう。
灰色の軍帽と深緑の折襟が付いた将校用の上着が無造作にソファーの上に放り投げられていた。
ベアトリクスは、黒のノースリーブのカットソーに、リーバイスのジーンズといういでたちで、ユルゲンにしなだれていた。
上から灰色のエプロンをかけているところを見ると、勝手場にいたのだろうか。
ちなみに、ジーンズの所持が違法だったソ連とは違い、東ドイツでは米国メーカーのジーンズが、少数だが合法的に入手可能だった。
1970年に正式に輸入され、リーバイスのジーンズ1万2千本が国営商店に並び、即時完売するほどだった。
また、西ドイツの親族や友人から、郵便で送ってもらうことも許されていたのだ。
「あら、アイリス。おかえり」
ベアトリクスの声で気が付いたユルゲンは、アイリスディーナのことをまじまじと見る。
彼女の姿は軍服ではなく、白いセーターに茶色いロングのフレアスカートという恰好だったので、
「今日は休みか」と尋ねた。
アイリスは、右肩にかけたハンドバックをテーブルに置くと振り返り、答える。
「ええ、そうですが。
ところで兄さん。お二人は、何をお話しされていたのですか」
「今後の事さ」
「兄さんが、米国に行った後の事ですか」
「そうだ。ベアと色々話してた」
ベアトリクスは、ユルゲンの背中にぴったりくっつけていた体を離すと、
「それでね、私気づいたの。
この人のために尽くす方法は、軍隊だけじゃないって」
ベアトリクスは結婚した後も軍隊に残って、ユルゲンの補佐をする立場になる。
その様にばかり考えていたアイリスディーナには、衝撃的だった。
あっけにとられていると、ベアトリクスは優しい声で語りかける。
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