第二部 黒いガンダム
第五章 フランクリン・ビダン
第三節 決断 第四話(通算94話)
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として……」
――言い訳しないっ
間髪入れずにピシャリといい放つ。
敵は言い訳など聞いてくれない。教練で何度となく繰り返し言われた台詞が蘇る。
「生と死を分けるのは運だけだ。その生を引き寄せるために最大の努力を惜しむな」
教練講師に就いた鬼軍曹の言葉だ。たしか名前は――
――第二撃、来るわっ
エマの声に現実に引き戻されたカミーユは、螺旋を描くようにランダムな円運動で回避行動に移る。
宇宙空間では、大気中のようにビーム兵器は減衰しにくい。集束率が持続する限り有効射程距離となる。ただし、砲塔の仰角は大気中と変わることはない。つまり、射線から逃れるには、直線外へと機動する必要があるということだ。MSにサブスラスターやアポジモーターを備えているのはそういう理由である。特にAMBACした上での機動は姿勢制御に必要な推進剤・冷却剤を節約できる分、機体の稼働時間を引き延ばす効果をもたらしている。
「エマ中尉っ!」
火線がカミーユの方に集まっている。同乗者がいるのは同じ条件であったが、ヒルダは設計技師のフランクリンよりも宇宙馴れしており、落ち着いて行動していた。いまだに、スペアシートのシートベルトのみで体を固定しているフランクリンを気にしながら操縦しなければならないカミーユ機の方が動きが鈍い。
――あと二分よっ
信号弾を挙げてから三分経過している。
今頃はレコア隊がこちらに向かっている筈だ。もう少しだけ粘れば、脱出できる。カミーユも気持ちを改めて操縦桿を握り直した。なるべく揺れを少なくして、フランクリンの恐怖を抑えるように配慮する。
「親父、いまのうちに――」
言いながら振り返ると、そこには泡を吹いて気を失っているフランクリンがいた。カミーユの配慮は取り越し苦労だった。
小さく嘆息を吐いて、正面のスクリーンに映るサブウィンドウを見る。小さな光点となった《アレキサンドリア》から太い光束帯がひっきりなしに吐き出されていた。
作戦時間を示すタイマーが残り五分を切った。
――来たわ! 以後、無線封鎖!
「了解!」
この闇の向こうに味方がいる――そう思えるだけで、安心感が増してくる。だが、そこに寄りかかれば、死神がすぐに大鎌をふるって命を奪うだろう。
まだ追撃を振り切った訳ではない。
もう一戦交えて、早く安全圏に退避しなければならなかった。
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