第二部 黒いガンダム
第五章 フランクリン・ビダン
第三節 決断 第四話(通算94話)
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フランクリンは、ただただ不安だった。
エマと話していたときは期待だけがふくらんでいたが、いざ宇宙にでてみると、死の恐怖がそこかしこに潜んでいると思い知らされる。暗い闇に、何か人を引きずりこむ魔物でもいるような気がしてならかなかった。
宇宙空間に浮かぶ人工植民島――巨大なガスボンベは、たった一枚の壁向こうは深淵の闇なのだと実感させられた。人類最大の建造物はこうしてみれば、如何に儚いものか。
そもそも、フランクリンは宇宙が好きではない。仕事柄、宇宙に住まうことが便利であるという理由で宇宙にいるが、本籍地は地球にあり、地球居住者であることに誇りをもっている。
「カミーユ……?」
「スペアシートのベルトだけじゃ、戦闘になったら危険だから、腰のフックで体を固定した方がいい」
カミーユは強い口調でフランクリンの声を遮った。フランクリンはただ話したいだけなのだが、カミーユは仁辺もない。
しかし、パイロットとしては、安全圏にいる訳ではないのだから、会話に意識を割きたくはないのは、当然といえば当然である。ただし、フランクリンは技術大尉待遇ではあるが、軍属である。この意識の差はどうにもならないことだった。
カタッ、カタカタカタッ、カチンッ。
耳障りな金属音がフランクリンの手元からしていた。不思議に思って、カミーユが覗きこむと、フランクリンの手の震えが止まらなく、リニアシートの固定バーにフックを掛けることができないでいた。
「なっ……」
たかがこれしきのことで――カミーユは天を仰ぎたい気分になった。それでも、技術者かっと怒鳴り散らしてやりたかった。が、そんな時間も惜しい。早く固定して、いざというときのためにも、戦闘の邪魔にならないようにしておかなければならない。
「貸せっ!」
コンソールを操作し、自動操縦に切り替えて、手を出そうとした、その時――
――カミーユ!
エマの声が通信機から響いた。
刹那、カミーユはサブスラスターのノズルを一斉に光らせた。声に反応して、急制動を掛けたのだ。一瞬、動きが止まったかのように軌道を変えたカミーユ機のすぐ近くを、光束帯が通過した。《アレキサンドリア》の主砲たるメガ粒子砲の軌跡である。
カミーユとしては、一瞬の隙を突かれた格好だった。操縦をオートパイロットに切り替えたのを見破られたのだろうか。いや、それはない。偶々の流れ弾だ。だが、戦場では、その流れ弾に殺られる者も少なくはない。味方の射線も計算に入れなければ、後ろから射たれるのである。自機の位置を知らせるビーコンやレーザー通信の大切さは、パイロットなら理解していた。
――なにをボーッとしてるの!?
「すみません……父――いえ、フランクリン大尉の固定フックを留めよう
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