【第一部】新世界ローゼン。アインハルト救出作戦。
【第2章】第一次調査隊の帰還と水面下の駆け引き。
【第2節】ナカジマ家、トーマとメグミの物語。
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さらに一年後、新暦83年の6月に、メグミがナカジマ家に来てからのことです。
無事に包帯やギプスが取れた後も、メグミはしばらくの間、車椅子での生活を余儀なくされました。事故の後遺症で、手足も口もまだあまり満足には動かせなかったのです。
それでも、わずか13歳の傷だらけの少女は、ぎこちなくも懸命に、前向きに生きようとしていました。
他の家族はみな普通に働いているので、平日の昼間に家にいるのは、基本的にトーマとメグミだけです。彼女のすること一つ一つがどうにも危なっかしく見えて、トーマはしばしば「仕方なく」彼女の世話を焼きました。
「お前……なんでそんなに笑っていられるんだよ?」
或る日のこと、メグミはほとんど詰るような口調でそう問われて、トーマの境遇もよく知らぬままに、まだ少したどたどしい口調でこう答えました。
「だって……私が、泣き暮らしていたら、父さんや母さんの身魂も、きっと安らぐことが、できませんから。……それに、私は弟や妹の分まで、元気に生きていかなきゃ、ダメなんです。あの子たちも、きっとそれを、望んでくれているはずですから」
それを聞いて、トーマはようやく我に返りました。自分はこの一年半、一体何をしていたのだろうか、と。
自分より四つも年下の女の子が、家族をすべて失ってもこんなに前向きに生きているのに、自分ひとりがいつまでも「己が不幸」に酔い続けていて良いはずがない!
融合機にも魂があるのかどうかなんて解らないけれど、もしあるのだとしたら、リリィは今、こんな自分を見てきっと嘆いているだろう。トーマは思いました。もうこれ以上、彼女の魂を悲しませないためには、自分は一体どうすれば良いのか、と。
もちろん、答えは最初から解っていました。
頭では、そんなことぐらい最初から解っていたのです。
ただ、心が哀しみに黒く塗り潰されてしまっていて、その答えを心の奥底にまで届かせることができなかったのです。彼はただ、最初の一歩を踏み出すための「力」が得られずに、その場にただ立ち止まっていただけだったのです。
暗闇の中でずっと立ちすくみ続けていたトーマの心は、小さな光を見つけて今ようやく歩み出しました。それは、本当に小さな光でしかなかったけれど、それでも、真っ黒に塗り潰された深い闇の中では大きな「力」を持つ光でした。
「そうだな、メグミ……。お前の、言うとおりだ……」
トーマは、たったそれだけの言葉を、やっとのことで絞り出しました。
その時、義理の兄がどうして突然、涙ぐんでしまったのか。メグミがそれを理解できるようになったのは、それから何か月も経って、ゲンヤから彼の境遇を聞かされた後のことでした。
トーマ(17歳)はまず、メグミがいずれ復学することを見越して、(父や
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