【第一部】新世界ローゼン。アインハルト救出作戦。
【第2章】第一次調査隊の帰還と水面下の駆け引き。
【第2節】ナカジマ家、トーマとメグミの物語。
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ど……どうか、お願い。あなたは、私の分まで生きて……。》
そこで爆発に呑みこまれて意識がぷっつりと途切れ、次に気がついた時には、トーマはもう病院のベッドの上でした。
何もかもが終わって、もう何日も経った後のことでした。
エクリプスウイルス感染の方も、すでにシャマルたち医療チームによる治療が完了していたのですが……それでも、トーマは当初、自分が無事に生きているということを、素直に喜ぶことすらできませんでした。
リンカーコアも損傷し、昔から使えていた魔法も全く使えなくなってしまっていましたが、今のトーマには、それすらも「もうどうでもいいこと」でしかありませんでした。
『どうして、自分は生き残ってしまったのだろう?』
『リベルタでは、何の罪も無い人々が何万人も死んでしまったのに。他の感染者たちもみんな、みんな死んでしまったのに。そして、リリィまでもが死んでしまったのに! どうして、自分だけがおめおめと生き残ってしまったのだろう?』
体の傷が癒えて退院し、正式にゲンヤの養子になってからも、トーマはずっとそんなことばかりを考え続けていました。
日常生活の中でも唐突に記憶が蘇り、食事中だろうが会話中だろうが御構い無く、何の前触れも無しに、いきなり両眼からどうしようもなく涙が溢れ出してしまう。そんな「発作」が、もう毎日のように続きました。
ナカジマ家の六姉妹は、みな揃ってそんな「弟」の身を案じましたが、ゲンヤはあえて娘たちに『努めて、トーマには干渉しないように』と言い含めました。
実のところ、ゲンヤ自身もクイントに先立たれてしまった時には、しばらく誰の言葉も聞きたくなどなかったからです。
「しばらくは、そっとしておいてやろう」
父親であるゲンヤにそう言われれば、あえてそれに逆らう養女は一人もいませんでした。
しかし、当時のゲンヤには、まだ妻の死因を究明するという「使命感」がありました。ギンガとスバル、二人の娘という「生きがい」もありました。
でも、トーマには、それすらも無いのです。
年が明け、やがて春が終わる頃には、トーマはもう「外見的には」普通の生活が送れるようになっていました。夜には眠り、朝には起きて、食事も普通に取り、多少の受け答えならば「表面的には」普通にできるようになっていました。
それでも、その頃のトーマは端的に言って、『リリィに「私の分まで生きて」と言われてしまったから「仕方なく」生きているだけ』といった状態でした。
いや。『ただ生きているだけ』と言うよりも、むしろ『まだ死んでいないだけ』と言った方が、より的確な表現なのかも知れません。
いくら体の傷が癒えても、心の傷はなお癒えぬままでした。
そうした状況が変わったのは、それから
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