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料亭の奥の部屋
第二章

[8]前話
「私にしても」
「ご存知ないですか」
「そうだよ」
 こう言うのだった、そしてだった。
 八条自動車東京支社ではその部屋のことは謎のままであった、だがその八条グループの総帥はこっそりと周りに笑って話した。
「何でもないよ」
「そうしたお部屋ですか」
「あの料亭の奥のお部屋は」
「確かに格式があって」
 そうであってというのだ。
「お店の方も滅多な人は通さないけれど」
「それでもですか」
「別にですか」
「何もないのですか」
「そうだよ」
 こう話すのだった。
「幽霊と科の話があってもね」
「明治の元勲の幽霊が出る」
「そんな噂がありますが」
「あの料亭のあの部屋には」
「実は何もないですか」
「確かに明治の元勲がよく通って」
 そうしてというのだ。
「あそこで飲んで食べながらね」
「政治の話をしていましたね」
「国家を論じて」
「そうだったのですね」
「歴代総理大臣の多くの人も入ったし」 
 その部屋にというのだ。
「財界の大物の人達もね」
「歴史に名を残す様な」
「そうした人達がですね」
「あの部屋で飲んで食べて話していましたね」
「日本のことを」
「そうだったけれどあの場所にはもう来ていないよ」
 この世を去った今はというのだ。
「ただあの人達が通った」
「そうした場所ですか」
「ただそれだけですか」
「そうしたお部屋なのですね」
「うん、それでわしも東京に行った時にあの部屋に入って」
 総帥自身もというのだ。
「何かと話したけれど何もだよ」
「出ないで」
「ただ一緒にお部屋に入った人とお話をされただけですか」
「飲まれ召し上がられ」
「それだけですか」
「あの料亭で一番いい部屋であるだけだよ」
 まさにというのだ、それでだった。
 総帥は東京に行った時にその料亭でその部屋に入って大事な話をすることがあった、それで彼は知っていたが。
 都と小松、たまに接待でその料亭に入ることはあっても立場上接待だけでしかもその部屋に入ることのない彼等はこう話し続けた。
「本当にまさかな」
「明治の元勲の幽霊が出入りしているなら」
「物凄いな」
「そうですよね」
「一度見てみたいものだ」
「それでお話してみたいですね」
「そうだよな、何かと聞きたいことがある」
 都は小松に言った。
「歴史のことやプライベートのことを」
「伊藤さん女好きでしたしね」
「どんな女遊びしてたかも知りたいな」
「そうですよね」
 こんな話をしていた、噂が本当ならと考えて。そうしてたまに接待でその料亭に入って美味い酒と料理に舌鼓を打つのだった。


料亭の奥の部屋   完


                  2024・3・19
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