【第一部】新世界ローゼン。アインハルト救出作戦。
【第1章】教会本部、ヴィヴィオとイクスヴェリア。
【第2節】冥王イクスヴェリアの哀しみ。
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た意識だけが覚醒しました。
しかし、ベルカとミッドでは「何か」が違うのか。あるいは、近くに〈操主の鍵〉が無いからなのか。それとも、単なる経年劣化の類なのか。
理由はよく解りませんでしたが、とにかく、ミッドではイクスヴェリアの〈意識体〉は肉体からほんの二〜三メートルしか離れることができませんでした。
スバルやヴィヴィオたちはしばしばイクスヴェリアの部屋まで見舞いに来てくれましたが、彼女らの目にも、シスターたちの目にも、イクスヴェリアの〈意識体〉は映りませんでした。
また、世界が違うからなのか、もう時代が違うからなのか。イクスヴェリアの〈意識体〉が憑依できそうな「波長」の合う人間も全く見つかりません。
そんな孤独の中で、イクスヴェリアはやがて、一つの痛切な願いを抱きました。
『……私も、彼女たちと同じ時代を、同じ世界を生きていきたい……』
そして、翌79年の8月。
そうした祈りがようやく天に届いたのか、イクスヴェリアは「実体のある分身」を産み出すことに成功しました。
そして、自分の〈意識体〉をその小さな分身に憑依させることで、ようやく部屋の外へも出られるようになりました。
それで、最初のうちは、本当に楽しかったのです。
しかし、ベルカでも憑依した相手をイクスヴェリアの意志で動かすことは全くできなかったのと同じように、小さな分身はただ自律的に行動するばかりで、彼女自身の意志でその分身を動かすことは全くできませんでした。
イクスヴェリア自身にできることは、ただその分身の五感を通して、さまざまな情報を受け取ることだけでした。
それでも、最初のうちは、本当に楽しかったのです。
しかし、時が経つにつれて、古代ベルカでのさまざまな記憶が、少しずつ蘇って来ました。
他の国々では「恐怖の代名詞」だった〈冥王〉も、ガレアの王城では必ずしもそれほど恐れられていた訳ではありません。
中には、本当に優しく接してくれる大人たちもいました。まるで友だちのように親しく接してくれる侍女たちもいました。
それでも、イクスヴェリアが「永い眠り」に就いて再び目を覚ました時には、彼等はもういないのです。彼女が何十年も眠っている間に、彼等はみな年老い、先に死んでしまったのです。
この世に、イクスヴェリアただ一人を置き去りにして。
小さな分身は本当に楽しそうにしていましたが、その一方で、イクスヴェリア本人の意識は今、哀しみに暮れていました。
『あの日、せっかく友だちになってくれたのに、ヴィヴィオはいつの間にか大人になってしまい、今ではもう母親になろうとしている。
自分がこのまま眠り続けていたら、スバルも、ヴィヴィオも、いつかは年老い、死んでしまう。みんな……みんな、死んでしまう!』
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