第二章
18.サマルトリアの王子(3)
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「誰じゃ? わたしの祈りを邪魔する者は」
「私です。申し訳ありません、ハーゴン様」
「……お前か。お前はいい」
「よいのですか?」
「よくはないがいい」
「?」
「昨日も下の階で物をひっくり返して師弟揃って謝りに来ていただろう。キリがないわ」
「すみません」
「別に怒っているわけではない。わたしはお前ほど上手に茶を入れる者を知らぬ。これからもハゼリオとともにわたしのために働け」
「ありがとうございます! どこまでもついていきます」
「どこまでもはついてこなくてよいわ」
「え?」
「その勢いだとあの世まで追いかけてきそうだ。そこまで気負うと余計にミスが増える。とりあえず、お前の仕事は茶を淹れることであって茶々を入れることではない。わたしが祈っているときはこの階の掃除は避け、下の階でも音を立てないこと。まずはそれだけに気をつければよい。まだ新入りで子供なのだからな」
「……」
「何かわからぬことでもあるのか」
「あ、はい。『あの世』とおっしゃいましたが、ハーゴン様も死ぬのでしょうか?」
「そこか……。当たり前だ。三百年以上生きているのは事実だが、死なないわけではない」
「そうなのですか?」
「そうだ。不老と不死は違う」
「わかりました。あの世であろうがついていきます!」
「……話が通じておらぬようだが大丈夫か」
− − −
意識の戻ったフォルには、天井より手前に光るものが見えた。
それが自分に向けて落とされようとしていた剣の切っ先であることに気づき、慌てて石の床の上を転がった。
「あ、起きちゃった」
立ちあがったフォルは慌ててサマルトリアの王子から距離を取りながら、他の二人を視界から探した。
「……!」
いた。
どちらも床に沈んでいる。
周囲の床がところどころ真っ赤に着色されている。二人ともひどい出血だった。
杖をサマルトリアの王子に向けた。
今度は、宝玉のついた側を。
「君、そんな顔をしてたんだ。へえ」
ベギラマの炎に焼かれたせいで、立ちあがった際に仮面やフードが外れていた。十四歳の素顔や黒髪が露になっている。
「声でなんとなく予想はついてたけど、まだ子供だ」
「ギラ!」
無視してギラの呪文を唱えるも、やはり出ない。
「君はまだマホトーンの耐性がないみたいだね。当分はダメじゃないのかな」
戦況は最悪だった。呪文は使えない。杖での刺突もこの相手では勝負にすらならない。
「フォル、逃げるのじゃ」
「そ、そうだ、逃げろ」
「ヒースさん、シェーラさん……」
満身創痍の二人から声がかかると、フォルの奥歯に力が入った。
二人がこんなにボロボロになるまで戦っていて
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