第二章
18.サマルトリアの王子(3)
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くれていたのに、いったい自分は何をやっているのだろうと情けなくなった。
「皆さんを置いては逃げられません」
「いかん。おぬしは今や簡単に死んではならぬ身じゃ。教団の立て直しが――」
「そうか。魔物の再集結だけならともかく、人間の信者の再集結を呼びかけるのはアークデーモンやバーサーカーでは無理だ。だから、教団の再建にはハーゴンの神殿の生き残りであるこの子が必要不可欠だということだね。納得」
「そんな言い方はやめてください。二人に失礼です」
「ごめんよ、と言いたいところだけど、事実でもあると思う。君は利用されている」
「私に少しでも利用価値があるのなら、こんなにうれしいことはありません!」
感想を挟んでくるサマルトリアの王子を睨みつけると、フォルは床に沈んでいる二人に言った。
「二人ともごめんなさい。ここで逃げたら私はロンダルキアに帰る資格はないと思います。ハゼリオ様とハーゴン様もきっと私を見放すでしょう」
「逃がすつもりもないし、奇跡が起きない限りは君がこの場を切り抜けるのも無理だよ。だからあきらめて」
「あきらめません。奇跡に、かけます」
フォルはふたたび杖をサマルトリアの王子に向けた。
「ギラっ!」
「出ないって」
「出すんですッ!!」
煽られて大きな声を出してしまった瞬間、出始めた。
炎ではなく、風が。
「ん、これは」
サマルトリアの王子が訝し気な声をあげるなか、徐々に風が強くなっていく。
吹き方が異様だった。杖から吹いている感じもしたが、それだけでなく、フォル周辺の空気全体が前方に吸い寄せられているかのような雰囲気もあった。
その吸い寄せられている先は……。
「……!」
やはり彼だった。
サマルトリアの王子が、自らの体を見て驚く。
胴を覆うロトの紋章が入った緑色の服、腕や脚を覆う黒色の服が、裂け始めたのである。
そして。
「くっ」
痛みに顔を歪める。
ついには腕や脚から血が流れ始めた。
「バギか!? いや、それより強い……」
顔を腕でかばうサマルトリアの王子。そしてさらに風は強まっていく。
「うああっ」
もはやただの風と呼べるものではない。突風が大灯台の最上階に吹き荒れた。
フォル本人も目をつぶってしまうほどだった。
風、というものに心当たりはあった。
ロンダルキアでローレシア王に遭ってしまったときに、若いアークデーモン・ダスクとバーサーカー・シェーラを逃がすために杖で両名を突き飛ばしたが、そのときに突風が吹いた感覚があった。
この悪魔神官ハゼリオの遺品である杖の力に違いない。フォルは確信した。
あのときと違うのは、どうやら今回起こした風は殺傷能力があるとい
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